PART 1 THE FELLOWSHIP OF THE RING(2)


CHAPTER VI THE OLD FOREST 〜 古 森


さて黒の乗手達をまくために、一行は堀窪の裏手から古森へと入っていきます。メリーによると「木すら場所を変える」得たいのしれない場所ですが、案の定ポニーに乗ったホビット達は、生い茂る木々に行く手をはばまれ、やむなく最も近寄りたくなかった枝垂川(River Withywindle)に近づいてしまいます。そして川のほとりで彼らは非常な眠気に襲われ眠り込んでしまい、ピピンとメリーは柳じいさん(Old Man Willow)に捕まってしまいます。助けを求めて闇雲に走り出したフロドの耳に不思議な歌声が聞こえてきます。


Hey dol! merry dol! ring a dong dillo!
Ring a dong! hop along! fal lal the willow!
Tom Bom, jolly Tom, Tom Bombadillo!

そら、ラン!楽しや、ロン!
ラン!ロンと鳴らせ!鐘を。―――
うて、ドン!とべ、ポン!
さやさやなるは、柳。
トム、ボム、陽気なトム・ボンバディル
まあ正直言って、意味のない言葉の羅列が多いですから、日本語訳はあまり意味がないですね。実はトールキン自身が自分の作品を読んだCDが発売されていますが、その中で彼はトムの歌声も読んでいます。トムの歌は(そしてトムの話す言葉も)まさに詩で、またトールキンの読み方も作者ならではの物なのでしょうが、実にうまくリズム感のある歌になっています。

さてホビットのところにやってきたトム・ボンバディルは話を聞くと直ちにメリーが閉じこめられた柳の木の割れ目に向かって低い声で歌い始めます。



'What be you a-thinking of? You should not be waking. Eat earth! Dig deep! Drink water! Go to sleep! Bombadil is talking!' 「おまえは何を考えてるんだな?おまえは目を覚ましたらいけないぞ。土をお食べ!深く掘れ!水をお飲み!眠るのだ!ボンバディルが話してるんだぞ!」
what be you a-thinking of? これはWhat are you thinking ofの古い形です。dig =掘る 
さてこの台詞も映画で使われています。どこだかわかりますか? 古森から塚山丘陵でののくだりは映画では一切省かれていますから、ボンバディルも一切登場しません。
実は映画の方は、第2部「二つの塔」でファンゴルンの森に逃げ込んだピピンとメリーが木の髭に助けられますが、SEE版では二人がエントの水を飲むシーンがあります。(原作にも木の髭の家でエントの水を飲むシーンがあります)エントの水を飲むと背が伸びるので夢中になった二人をそばの木が、ここの柳じいさん同様木の根っこで押さえつけてしまいます。二人の呼び声に駆けつけた木の髭が、二人を襲った木にこの台詞を言って二人を助けます。トム・ボンバディルのくだりを一切省かれてしまい、残念がっているファンへのジャクソン監督のささやかなプレゼントといったところでしょうか。



CHAPTER VII IN THE HOUSE OF TOM BOMBADIL 〜トム・ボンバディルの家で


さてホビット達はトム・ボンバディルに助けられ、彼の家につれてこられます。ご馳走を振る舞われた後、ホビット達は火の側でトムの話を楽しみます。彼の話方があまりにうまいので、フロドはついつい指輪の事まで話してしまいました。


Show me the precious Ring!' he said suddenly in the midst of the story: and Frodo, to his own astonishment, drew out the chain from his pocket, and unfastening the Ring handed it at once to Tom.

Then Tom put the Ring round the end of his little finger and held it up to the candlelight. For a moment the hobbits noticed nothing strange about this. Then they gasped. There was no sign of Tom disappearing!
precious =大事な(ゴラムの「いとしいしと」ですね) suddenly =突然
in the midst =〜に最中に  to one's astonishment =(〜の)驚いたことに
draw out =引っ張り出す  unfasten =〜をはずす hand =手渡す
little finger = 小指  hold up =掲げる  notice =気づく strange =奇妙な
gasp = (驚いて)はっと息をのむ  sign =兆候 disappear =見えなくなる、消える
この出来事はフロドによってエルロンドの会議でも語られます。ボンバディルならば指輪を何とかできるのではないかという意見も出されますが、ガンダルフはボンバディルが指輪を支配できるのではなく、指輪がボンバディルを支配できないだけだと述べ、指輪をボンバディルに預かってもらうという案をしりぞけます。

ちなみにこのボンバディルという謎の人物。エルロンドによると、本名はイアルワイン ベン-アダール。最も年寄りで父を持たない者だそうです。実は身分的(?)には彼はマイアと呼ばれる太古から存在する西の世界からやってきたspirit (精霊)で、ガンダルフと同じ種族(?)にあたります。



CHAPTER VIII FOG ON THE BARROW-DOWNS 〜 霧の塚山丘陵

That night they heard no noises. But either in his dreams or out of them, he could not tell which, Frodo heard a sweet singing running in his mind: a song that seemed to come like a pale light behind a grey rain-curtain, and growing stronger to turn the veil all to glass and silver, until at last it was rolled back, and a far green country opened before him under a swift sunrise. その夜はなんの物音も聞こえませんでした。しかし夢の中でか現でか、さだかにわかりませんでしたが、フロドは快い歌声が心の中を流れるのを聞きました。その歌はまるで灰色の雨の帳の背後から射す淡い光のように始まり、だんだん強くなって、そのたれ幕はすっかりガラスと銀に変わり、ついにはそれも巻き戻されて、目の前にははるかに続く緑の土地がするする昇る朝日を受けって広がっていました。
either A or B = AかBかどちらか   pale =青白い
mind =心  veil =ベール at last =ついに  roll back = 巻き戻す
swift =すばやい sunrise =日の出
ここではボンバディルの家に泊まった二日目の晩にフロドが見た夢が記されています。ちなみに一日目の晩もフロドは夢を見ていて、そちらの夢ではアイゼンガルドのてっぺんに幽閉されているガンダルフの姿を見ています。(後に裂け谷での会議でそのことに気づいてガンダルフに言っています)このほかにも原作では何カ所かフロドの見た夢の記述があり、それぞれ予知夢だったり、また何らかの意味を持っています。
特徴的なのはホビット庄にいたころの夢でもフロドが海鳴りや海の夢を見ていたこと。この話の結末を考えると非常に暗示的です。

さて今回の夢ですが、この文章だけでは非常に綺麗な感じがする物の何の事やらさっぱりわかりませんね。しかしこの部分は非常に重大な意味を持ち、最後にもう一度同じような描写が(今度は現実の物として)登場します。映画の方でも使われています。実は第三部「王の帰還」でミナス・ティリスでガンダルフがピピンに語る台詞にここが使われているのです。(なぜガンダルフが同じような事が言えるのかというのもちゃんと説明がなりたちます)それにしてもトールキンらしい綺麗な文章ですが、ともあれなぜこの部分が大きな意味を持つかの説明は、後に出てきたときに譲りましょう。
さて二日間間ボンバディルの家に滞在したホホビット達は、トムに送られてて古森を抜けるべく出発しますが、これまた古森以上に恐ろしい塚山の方に迷い込んでしまう羽目に陥ります。
昼食後、なぜかこれまた眠くなってしまい四人そろって芝生の上で寝込んでしまいますが、目が覚めると霧が出ていて方向を見失い、先頭に立って歩いていたフロドが気づいたときには他の三人の姿はなく、彼は塚人に捕まってしまいます。そして次に気づいたときには塚山の古墳の中にいたのです。恐ろしい塚人(昔この地に住んでいた者の幽霊でしょうね)の不気味な長い腕が手探りしながらフロドに向かって近づいてきました。フロドはとっさに自分だけでも指輪を使って逃げたいと考えます。

There is a seed of courage hidden (often deeply, it is true) in the heart of the fattest and most timid hobbit, waiting for some final and desperate danger to make it grow. 一粒の勇気の種子は、たとえ一番でぶの一番臆病なホビットの心の中にさえ隠されていて(たしかに深く埋もれていることが多いのですが)、もうどうにもならない絶体絶命の危険が迫ってくるのを待っているあいだに、その種子が育っていくものです。
seed = 種子  courage =勇気 hidden< hide =隠す timid =臆病な
wait for O to do = Oが〜するのを待つ  final =最後の desperate =絶望的な 
make it grow =(ここでは)(危険が)勇気の種子を成長させる
ホビットの底力を見せてくれるような文章ですね。指輪物語は海外では「人の成長を描いた物語」としても有名だそうですが、ここかしこにこのような記述を見いだすことができます。またこのような部分にトールキンの人生に対する見方が表れていると思います。


At first Frodo felt as if he had indeed been turned into stone by the incantation. Then a wild thought of escape came to him. He wondered if he put on the Ring, whether the Barrow-wight would miss him, and he might find some way out. He thought of himself running free over the grass, grieving for Merry, and Sam, and Pippin, but free and alive himself. Gandalf would admit that there had been nothing else he could do.
But the courage that had been awakened in him was now too strong: he could not leave his friends so easily. He wavered, groping in his pocket, and then fought with himself again;

With what strength he had he hewed at the crawling arm near the wrist and the hand broke off;

はじめのうちフロドはあのまじないの歌によって自分が本当に石になってしまったような気がしました。ついでしゃにむに逃げたいという思いにとらわれました。かれは、もし指輪をはめれば塚人の目を逃れて、抜け出すこともできるのではないかと考えました。かれは、自分がメリーとサムとピピンの身の上を嘆きながら、しかし自分は生きて自由の身となって、草の上をどんどん逃げていくところを想像しました。ガンダルフだって、この場合ほかにどうしようもなかった事を認めてくれるでしょう。
 しかしかれの中に目覚めた勇気は、今ははるかに強いものになっていました。彼は友人達をそうやすやすと見捨てることはできませんでした。かれはためらいました。ポケットをまさぐり、そして次の瞬間には再びそういう自分と戦いました。
―――中略―――
もてる限りの力をふりしぼって、かれは忍び寄る腕の手首近くに切りつけました。
as if =まるで〜かのように   turn A into B = AをBに変える
incantation =呪文、まじない  wild =狂気じみた  
wonder whether =〜のではないかと思う   wight = (古)生き物
miss =見逃す  grieve =悲しむ  alive =生きて admit =認める else =他に
courage =勇気  awake =目覚める waver = ためらう grope =手探りで探す
crept <creep =這う
what ... he had =持っているすべての... hew = たたき切る crawl =這う wrist =手首

はじめは臆病だったフロドがその勇気をためされ、いつしか彼は友人を助けるために恐怖を克服して立ち向かいます。だんだんとフロドが変わっていく様子が描かれています。
ですが、古森よりもさらにホビット達に恐れられている塚人はフロド一人では対抗できません。彼はボンバディルに教えられていたとおり、彼に助けを求め、ボンバディルが塚人の呪いを解きます。(ところでボンバディルにこれほどの力があるなら、ホビット庄や他地の平和のためにあらかじめ塚人を退治しておけばいいのに、と思うのはわたしだけでしょうか?)

ともあれトムは塚山に眠っていた古い剣をホビット達にプレゼントします。後にフロドはビルボから与えられたつらぬき丸を帯びますが、他の3人はこの塚山で出土した剣を旅の最後まで持ち続けます。この塚山は元は西方人ヌメノール(アラゴルンの先祖ね)の都の後であり、彼らが手にした剣はヌメノールの職人によって作られた物でした。(映画ではアラゴルンが適当にホビット達に剣を手渡します)このヌメノール製の剣を持ったという事が、後々特にメリーには大きな意味を持つことになります。メリーはこの剣で大きな功績を挙げることになるのです。



CHAPTER IX AT THE SIGN OF THE PRANCING PONY 〜 躍る小馬亭で

映画に比べると非常に遠回りをしましたが、やっと彼らもブリー村に到着し、「躍る小馬亭」に宿を求めることになります。
ここでホビット達は(ガンダルフを除けば)初めて「大きい人たち」の中に加わることになりますが、映画では巨大なセットや特殊効果を使って、大きい人たちの中に投げ込まれたホビット達の心細い様子を巧みに描き出しています。
集会室の隅でビールを飲んでいたフロドは部屋の隅にいた人物に気づきます。


Suddenly Frodo noticed that a strange-looking weather-beaten man, sitting in the shadows near the wall, was also listening to the hobbit-talk. He had a tall tankard in front of him, and was smoking a long-stemmed pipe curiously carved. His legs were stretched out before him, showing high boots of supple leather that fitted him well, but had seen much wear and were now caked with mud. A travel-strained cloak of the heavy dark-green cloth was drawn close about him, and in spite of the heat of the room he wore a hood that overshadowed his face; but the gleam of his eyes could be seen as he watched the hobbits.

突然フロドは、壁に近い暗がりにすわっている、変わった様子の日焼けした男が、やはり熱心にホビットたちの話に聞き耳を立てているのに気が付きました。かれは背の高いふたつきの大ジョッキを前に置き、珍しい彫り物を施した柄の長いパイプをふかしていました。前に伸ばされた両脚には、かれによく似合うしなやかな皮の長いブーツを穿いていましたが、それはかなり穿き古したもので、その上泥がこびりついていました。旅に汚れた厚地の濃い緑のマントをぴったり身にまとい、これほど部屋が暖かいのに、顔が隠れるくらい目深に頭巾をかぶっていました。それでも、ホビットたちをじっと見守っている時のかれの目の輝きを、フロドは見て取ることができました。
suddenly =突然 notice =気づく weather-beaten= 日焼けした tankard = 取っ手付き大ジョッキ long-stemmed = 柄の長い curiously =奇妙に carved =刻む stretch = 伸ばす
supple =しなやかな  leather =皮 fit =合う wear =すり切れ cake =こびりつく
mud =泥  -stained =〜で汚れた  cloak =マント draw =引っ張る close =近くに
in spite of = 〜にもかかわらず heat =暑さ hood =フード overshadow = 〜に影を投げかける gleam =かすかな光
馳夫(Strider)ことアラゴルンの登場シーンです。映画の方はここの描写に忠実に映像化してあるので、映画やDVDをごらんになった方は、ここのシーンを思い浮かべながら文章を読んでいってください。わたしも読んでいてこんな風に表現するんだなと勉強になりました。


With a ping and pong the fiddle-strings broke!
the cow jumped over the Moon,
And the little dog laughed to see such fun,
And the Saturday dish went off at a run
with the silver Sunday spoon.
ピィン、プツン!と、胡弓が切れたさ。
 牡牛は、月をとびこした。
小犬は、それみて、大笑い。
土曜日の皿は、家出をして、さ
 日曜日の匙と、かけおちしたさ。
fiddle =フィドル、バイオリン
原作では、ピピンのおしゃべりを止めるために、自ら話し始めたフロドは、集会室の人々から歌を請われ、この歌を歌います。元はかなり長い歌ですが、ビルボが歌詞を書いたとしています。実はこの歌はマザーグースの非常に有名な歌と似通っています。トールキンは、ビルボが作った歌が人々に歌い継がれてマザーグースになったという設定でこの歌を書いています。そのため歌の前の所に「今ではふつうこの中のほんの数行が憶えられてるにすぎません」とわざわざ書いています。このマザーグースの歌もナンセンスな内容ですが、以前は長い歌の一部しか残っていないため、ナンセンスな内容になった、というように書いています。
想像ですが、トールキンもマザーグースに親しんでいたのは当然の事ですから、おそらくこどもの頃から「なぜ牡牛が月を飛び越えたのだろうか」などと考え、自由に空想を巡らせたこともあったのではないでしょうか。

さて原作ではこの歌を2度目に歌った時に、また映画ではピピンのおしゃべりを止めるために近寄った時に、フロドの指に指輪がはまってしまい、彼は群衆の中で姿を消してしまいます。


For a moment he wondered if the Ring itself had not played him a trick; perhaps it had tried to reveal itself in response to some wish or command that was felt in the room. He did not like the looks of the men that had gone out.
'Well?' said Strider, when he reappeared. 'Why did you do that? Worse than anything your friends could have said! You have put your foot in it! Or should I say your finger?'

しばらくの間、かれは指輪自身がかれを罠にひっかけたのではなかろうかと疑いました。おそらくそれは、この部屋の中に感じられるだれかの願いか命令に応えて、正体を現そうとしたのかもしれません。かれは外に出て行った男たちの顔つきが気に入りませんでした。「それで?」フロドがふたたび姿を現すと、馳夫はいいました。「なぜあなたはあんなことをしたのですか?あなたの友人たちが何をいったところで、あれほどひどいことにはならなかっただろう!あなたは苦しい立場に足を突っ込んでしまった!それとも指を突っ込んだというべきか?」

wonder if ~ = 〜かしらと思う  play O a trick = Oを迷わせる  reveal =明らかにする
 response =答える wish =願い command =命令 look =表情
worse = badの比較級、より悪い  put one's foot in ~ =しくじる、失言する
put one's foot in は「しくじる」という意味ですが、足を突っ込んだ→指を突っ込んだ と原作のおもしろみをきちんと伝えた訳になっていますね。


CHAPTER X STRIDER 〜 馳夫

'Maybe Mr. Baggins has an honest reason for leaving his name behind, but if so, I should advise him and his friends to be more careful.'
'I don't see what interest my name has for anyone in Bree,' said Frodo angrily, 'and I have to still to learn why it interests you. Mr. Strider may have an honest reason for spying and eavesdropping; but if so, I should advise him to explain it.'
'Well answered!' said Strider laughing.
「おそらくバギンズ氏は本名をあとに残して旅に出る正当な理由がおありなのだろうが、それならそれで、バギンズ氏も友人方ももっと用心深くなさるようにと申し上げなければなりませんな。」
「ぜんたいわたしの名がブリー村の人たちにどれほど重要性があるのかわからないな。」フロドは怒っていいました。「そしてなぜそれがあなたの関心を引いたのか、ぜひ教えていただきましょう。馳夫氏はこっそり様子をうかがったり、立ち聞きをしたりする正当な理由をお持ちなのだろうが、それならそれで、その理由を説明していただくよう申し上げなければなりませんな。」
「なるほどもっともなご返事だ!」馳夫は声をあげて笑いました。

honest = 正当な reason =理由  leave O behind = 置き去りにする、置いていく
advise O to do = Oに〜するよう勧める  angrily = 怒って  eavesdrop = 盗み聞きをするexplain =説明する    

馳夫の鋭い問いに対してフロドが同じような詞を使って切り返しています。馳夫はフロドの返事に満足したようで、答えを聞いて笑っています。この時点では馳夫が敵なのか味方なのかまだわかりませんから、フロドは緊張し、言葉を選びながらやりとりを続けていっています。
それにしてもこの「馳夫」、原作ではStriderで、strideとは大股で歩くという動詞ですから、striderは「大股で歩く人」といった意味になります。背の高い野伏が歩いているさまが思い浮かびますが、わたしは一番最初にLOTRを読んだのが原書だったので、Striderの方になじんでしまい、どうしても馳夫という名前に今でも違和感があります。この名前は馳夫の正体を野伏としか思っていないブリー村の人たちが名付けたあだ名なので、その点から言えば「〜夫」というようにわざわざ名前風にする必要もあったのだろうかと思います。しかもかなり侮蔑的な言い方であることは、後に彼の正体が明らかになった後、メリーやピピンが彼をStriderと呼びかけて、側近の者達が眉をひそめるシーンなども出てくる所などからも察せられます。ブリー村を出る時に馳夫が呼びかけられる「長すねの彦」などもおもしろいと思うのですが。


'I ought to have guessed it from the way the gatekeeper greeted us,' he said. 'And the landlord seems to have heard something. Why did he press us to join the company? And why on earth did we behave so foolishly: we ought to have stayed quiet in here.'
'It would have been better,' said Strider. 'I would have stopped your going into the common-room, if I could; but the innkeeper would not let me in to see you, or take a message.'

「あの門番がわれわれを出迎えたときの様子から、当然そうと考えるべきだった。」とかれはいいました。「それに、宿の亭主も何か耳にしているようだった。かれはなぜわたしたちにみんなの集まりに加わるように勧めたのだろうか?それにわたしたちはいったいまたなんであんな馬鹿なまねをしたんだろうか?わたしたちはおとなしくここにひっ込んでいるべきだったのだ。」
「そうしたほうがよかったことはよかった。」と、馳夫はいいました。「もしできれば、わたしはあなた方が集会室に行くのを止めさせただろう。しかし宿の亭主はわたしがあなたに会うことを許してくれなければ、伝言を伝えてくれようともしなかった。」

ought to =すべきだ  ought to have guessed =考えるべきだった guess = 類推する  guess A from B = BからAを類推する  the way =方法、やり方
gatekeeper =門番 greet =挨拶する landlord =主人(ここではバタバー) seem to have heard =聞いたらしい
press O to = Oに〜するようしきりに勧める on earth =一体全体 behave =振る舞う
quiet =静かな stop one's doing = 人が〜するのを止める  common-room =集会室
innkeeper =宿屋の主人  would not = 〜しようとしない
let O in =Oを中に入れる   take a message =伝言をする
文法項目を基準にして採用する文を拾ってばかりというのも考え物ですが、ともあれここには重要な文法項目が目白押しなので、やはり取り上げました。

とにかく宿屋の集会室でのフロド消滅事件の直後ですから、「〜すべきだった」とか「〜だったら〜だったのに」とか過去を振り返る表現ばかりでてきます。

ought toは「〜すべき」という意味ですが、ought to have 過分となると「〜すべきだった」(そして実際しなかった)という過去を振り返った表現になります。(We ought to have stayed quiet in here. ここでじっとしているべきだった。→実際は部屋でじっとしていなかった) 

後半の 'It would have been better'は前の表現を受けて、'If you had stayed quiet in here, it would have been better' (もしあなたたちが静かにここにいれば、事態はもっと好転していただろう)というような内容です。
次の文も同じく過去の事実と反することを述べる仮定法過去完了の用法の文で 'I would have stopped your going into the common-room, if I could(stop your going into the common-room.); は実際はバタバーに妨げられて、ホビット達の集会室行きを止められなかった、という内容を表しています。

とにかく仮定法はなかなかややこしい文法ですが、小説などで状況がきちんとわかっているところで理解して憶えていくのが一番です。


さてやりとりが続く中、サムは馳夫の正体がわからないと警戒していますが、フロドはその裏にある物を見抜いていきます。


'I think, I think you are not really as you choose to look.
――中略――
I don't see why you should warn us to take care, and yet ask us to take you on trust. Why the disguise? Who are you? What do you really know about -- about my business; and how do you know it?'
'The lesson in caution has been well learned,' said Strider with a grim smile. 'But caution is one thing and wavering is another.'
「あなたは、本当のあなたはですね、ご自分でこう見られたいと思ってらっしゃるあなたとは違うのじゃないかと、わたしは思うのです。
――中略――
わたしにはいったいなんであんたがわたしたちに用心しろと警告しておきながら、一方では、あなたを信用して連れて行けといわれるのかわかりかねるのです。なんのために正体をかくしてられるのです。あなたはだれなんですか?あなたは、わたしの――わたしの用むきについて何を本当に知っていられるのです?そしてまたどうやってそれを知られたんですか?」
「用心しろという教えは十分に身につけられたな、」馳夫は苦笑いを浮かべていいました。「しかし用心することとためらうこととは別だ。」
There was a long silence. At last Frodo spoke with hesitation. 'I believed that you were a friend before the letter came,' he said, 'or at least I wished to. You have frightened me several times tonight, but never in the way the servants of the Enemy would, or so I imagine. I think one of his spies would -- well, seem fairer and feel fouler, if you understand.'
'I see,' laughed Strider. 'I look foul and feel fair. Is that it? All that is gold does not glitter, not all those who wonder are lost.'
長い沈黙が続きました。ようやくフロドがためらいながら口を利きました。「わたしはあの手紙がとどかないうちから、あなたを味方だと信じました。少なくともそう信じたいと思っていました。今夜あなたは何度もわたしを怖がらせました。しかしそれは、われらの敵に仕える者たちのやり方とはけっして似ていません。あるいは似ていないだろうと思うのです。かの者の間者の一人であるならば―――そうですね、見かけはもっとよく、感じはもっと悪いだろうと思うのです。おわかりでしょうか。」
「わかります。」馳夫は声をあげて笑いました。「わたしは見かけは悪く、感じはよいということですな?『金はすべて光るとは限らぬ、放浪する者すべてが迷える者ではない。』とな。」
silence = 沈黙  hesitation = ためらい  at least =少なくとも wish to = 〜であればよいと願う(toの後にbe a friendが省略されている) frighten =脅かす  several times =何度か  servant =召使い  wouldの後にfrightened meが省略。  spies<spy =スパイ
fair =感じのよい、魅力的な foul =汚らわしい、きたない  
All that is gold does not glitter. ことわざ:光る物すべてが金とは限らない。
(All that glitter is not goldとも言う) those who =〜する人  wander =放浪する

原作では宿屋の亭主が届けてくれたガンダルフからの手紙に馳夫の事が書いてあったため、ホビット達は納得します。そして彼は一行に加わる訳ですが、まだまだ正体は謎に包まれています。映画の方でもここの部分は一部台詞に使われています。映画の方ではブリー村を出た後です。(SEE版のみです。劇場版にはありません)

映画版
Frodo: Where are you taking us?
Aragorn: Into the Wild.
Sam: How do we know this Strider is a friend of Gandalf?
Frodo: I think a servant of the enemy would look fairer and feel fouler.
Merry: He's foul enough.
Frodo: We have no choice but to trust him.
フロド:僕たちをどこに連れて行くんだい?
アラゴルン:荒野へ
サム:どうしてこの馳夫がガンダルフの友達だってわかるんだね?
フロド:敵の召使いはもっと見た目はよくても感じは悪いと思うんだ。
メリー:彼は十分感じ悪いよ。
フロド:僕たちは彼を信頼するしかないのさ。


CHAPTER XI A KNIFE IN THE DARK 〜 闇夜の短剣

ホビット達はアラゴルンの忠告に従い、ホビット用の部屋を引き払って、アラゴルンの部屋で一夜を明かします。原作の方には一切描写されていませんが、映画の方では夜中に黒の乗手たちがホビットの部屋を襲うシーンが挿入されています。4人の乗手がベッドの横で長剣を掲げ、一斉にベッドに突き立てるシーンは圧巻で、映画ならではの迫力がありますが、実はこのシーンもバクシのアニメ版の宿屋が襲われるシーンと非常に似ています。この部分もバクシへのオマージュのようです。(ちなみにバクシ自身は今回の映画には一切関係していません。一説によるとまるで声をかけられなかったので、おもしろくなかったとか。)下はそこの描写です。


As soon as Strider had roused them all, he led the way to their bedrooms. When they saw them they were glad that they had taken his advice: the windows had been forced open and were swinging, and the curtains were flapping; the beds were tossed about, and the bolsters slashed and flung upon the floor; the brown mat was torn to pieces.
馳夫はみんなを起こすとすぐに先に立って、一同を寝室に連れて行きました。自分たちが休むはずだった部屋を見て、かれらは馳夫の忠告に従ったことを喜びました。無理矢理こじ開けられた窓は風に揺れ動き、カーテンがぱたぱたとはためいていました。ベッドはひっくり返され、長い枕はめった切りにされて床に投げ出されていました。茶色のマットはずたずたに破かれていました。
as soon as = 〜するとすぐに、  rouse = 起こす lead =案内する 
force open = こじ開ける  swing =揺れる flap =はためく toss = 放り投げる
bolster = 長枕 slash =切り裂く  fling =放り出す  be torn to pieces = ずたずたに引き裂かれる 
さて出かける段になって、今度はホビット達のポニーが行方不明になり、また一騒ぎあります。早く、しかも密かにブリー村を発ちたがっていた一行はがっかりします。


Frodo was crushed by the news. How could they hope to reach Rivendell on foot, pursued by mounted enemies? They might as well set out for the Moon. フロドはその知らせを聞いて、すっかり打ちのめされてしまいました。馬上の的に追われながら徒歩で裂け谷に辿り着くことは、到底望めないことではないでしょうか?月に向かって旅立つのも同然です。
crush = 押しつぶす How could they〜? =どうやって〜できるのでしょう?(反語的表現)
on foot =歩いて pursue = 追跡する  mounted = 馬にまたがった 
might as well =〜したほうがよい、〜したほうがましだ
'But so ends all hope of starting early, and slipping away quietly! We might as well have blown a horn to announce our departure.' 「だが、これで、朝早く、そっと抜け出すという望みもすっかりだめになった!これじゃまるで角笛を吹き鳴らして出発を告げ知らせるようなもんだ。」
end =終わる hope =望み slip away =こっそりと去る blow =吹く horn =角笛
announce =知らせる departure =出発
might as wellは辞書を引くと「〜するほうがよい」などとありますが、むしろこの熟語は「どちらかといえば〜したほうがまし、〜も同然」という表現です。ですから、時として非常にばかげた事柄がこの後に続きます。上の例ではフロドは本当に月に向かって旅立った方がいいなどと思ってるわけではなく、「月に向かって旅立つのと同じぐらい実現不可能」と言っている訳です。下のアラゴルンの例も同様です。
それはそうと密かに出発できなくて悔しがるアラゴルンを尻目にメリーは「でもこれで朝ご飯が座って食べられる」と喜んでいました。これぞホビット…でしょうか?


さて馳夫ことアラゴルンに率いられ、ホビット達はブリー村を旅発ちます。ぶよ水の沢を抜け、荒野を進み、風見が丘へと辿り着きます。この風見が丘(Weather Top)は古代の名をアモン・スール(Amon Sul)といい、古代の西方人の物見の丘だったところです。そこれ彼らはガンダルフがこの丘に来た形跡を発見しますが、ガンダルフには会えず、むしろ黒の乗り手たちを遠くからみかけます。その晩やむなく風見が丘の付近で野宿をしますが、不安をぬぐうためにホビット達はアラゴルンに何か話をしてくれるよう頼み、彼はその代わりにある歌を歌います。それはルシアンとベレンの出会いを歌った物でした。


The leaves were long, the grass were green,
The hemlock-umbels tall and fair,
And in the glade a light was seen
Of stars in shadow shimmering.
Tinuviel was dancing there
To music of a pipe unseen,
And light of stars was in her hair,
And in her raiment glimmering.
木の葉は長く、草は緑に
 ヘムロックの花笠はのびて、あでやかだった。
木の間の空地にさしこむ光は、
 夜空にまたたく星明かりだった。
そこに躍るのは、ティヌヴィエルよ、
 見えない笛の音にあわせて。
星明かりを髪にかざし、
 まとう衣をきらめかせて。
hemlock =ヘムロック、ドクニンジン  umbel = 繖形(さんけい)花序
glade = (文)林の中の空き地
shimmer =かすかに光る、ゆらめく pipe =笛  raiment =(文)衣服、衣装
glimmer = きらきら光る
本当は長い詩ですが、最初の1節のみを取り上げました。「指輪物語」には多くの詩が書かれていますが、その詩だけを取り上げた本  が出ています。こちらを参照されてもまた独特の世界が味わえると思います。
さて、中つ国の歴史には人間とエルフのカップルが二組存在します。一つは指輪物語の中で語られる、アラゴルンとアルウェン。そしてもう一組がこの歌で歌われているベレンとルシアンです。彼らについての詳しい話は「シルマリルの物語」の中に収録されています。そしてアラゴルンは自分とアルウェンの身の上をベレンとルシアンになぞらえて、上古の世代の二人の思いを馳せながら、この詩をホビット達に歌って聞かせているわけです。
トールキンは妻のエディスが亡くなった時、彼女の墓にルシアン・ティヌヴィエルと刻み込み、また彼自身が亡くなった時、彼の友人達は彼の墓にベレンと刻みました。
この二人についてはこのサイトの別ページでも触れていますので、ぜひごらんになってください。


さて夜が更け、月が昇り、かすかな光を照らすと、彼らの元についに黒の乗り手達がやってきます。
Terror overcame Pippin and Merry, and they threw themselves flat on the ground. Sam shrank to Frodo's side. Frodo was hardly less terrified than his companions; he was quaking as if he was bitter cold, but his terror was swallowed up in a sudden temptation to put on the Ring.

ピピンとメリーは恐怖に打ちのめされ、地面にぺったりと体を投げ出しました。サムはフロドの脇に縮こまりました。フロドも仲間たちに劣らず怯えていました。彼はひどく寒気がするように、がたがたふるえていました。しかしその時恐怖は、突然指輪をはめたいという誘惑に、吸い込まれてしまいました。
terror =恐怖 overcome =打ち勝つ、打ちのめす  throw oneself =身を投げ出す
flat = 平らに  shrank <shrinkの過去 shrink =縮む、小さくなる 
hardly =ほとんど〜ない  no less ~ than.... = ...同様〜だ。  companion =仲間
quake =ふるえる  bitter =非常に swallow up =飲み込む  temptation =誘惑
put on =身につける 
no less 〜than.... (....同様〜だ)はなかなかややこしくて覚えられない構文ですが、(ここではさらにno の代わりにhardly(ほとんど〜ない)が使われています)このようにトールキンなどはちゃんと使っています。口語表現ではめったにお目にかかりませんが、こういう文学作品などには、必要とあれば使われている表現なので、ここのところで覚えてしまってください。 no lessでかえって Frodo was terrifiedという肯定の意味になってきます。

さて、フロドはしばし誘惑と戦いますが、やがて誘惑に負け、指輪をはめてしまいます。映画では指輪をはめた時のフロドの見た物を特殊映像をふんだんに使って効果的に表現しています。幽鬼達が指輪をはめたときにははっきりと見えるのがかえって不気味でした。


At that moment Frodo threw himself forward on the ground, and he heard himself crying aloud: O Elbereth! Gilthoniel! At the same time he struck at the feet of his enemy. A shrill cry rang out in the night; and he felt a pain like a dart of poisoned ice pierce his left shoulder. Even as he swooned he caught, as though a swirling mist, a glimpse of Strider leaping out of the darkness with a flaming brand of wood in either hand. With a last effort Frodo, dropping his sword, slipped the Ring from his finger and closed his right hand tight upon it.

その瞬間フロドは地面に体を投げ出し、自分が声高く「おお、エルベレス!ギルソニエル!」と叫んでいるのを聞きました。それと同時にかれは敵の足許に剣を突き刺しました。かん高い叫び声が夜の闇に響き渡りました。そしてかれはまるで毒ある氷の投げ矢が突き刺さったような痛みを左肩に感じました。彼は気が遠くなりながらも、渦巻く霧を通して見るように、馳夫が両手にめらめらと燃える木切れを持って、暗闇から飛び出して来るのをちらと目に捕らえました。最後の力をふりしぼってフロドは、剣を手から落とし、指から指輪を抜きとると、右手でそれをしっかりと握りました。(P216)

throw oneself =身を投げ出す  hear O Ving = OがVするのを聞く
at the same time = 同時に  struck<strikeの過去 strike = 打つ、攻撃する
shrill = 甲高い 鋭い  rang<ringの過去 ring out =鳴り響く pain =痛み
dart = 投げ矢 poison =毒を盛る pierce = 突き刺す feel O 原形=Oが〜するのを感じる  swoon = 気絶する、衰える、弱まる as though =
映画でアラゴルンを演じたのはヴィゴ・モーテンセンですが、実は直前まで別の俳優が演じることになっており、急遽彼に変更されたのです。ですから彼は一番遅く撮影に加わった訳です。現地入りしてすぐに撮影したのがここの幽鬼たちとの立ち回りのシーン。剣使いの指導者に特訓されて、現地入り数日で見事にナズグル達との先頭を演じていました。

また映画での見事な立ち回りが印象的ですが、原作を読むと実はあのような戦いはなく、他のホビット達は微かな影を見たにとどまります。ともあれここでフロドが受けた傷はこの先ずっとフロドを苦しめることになります。


CHAPTER XII FLIGHT TO THE FORD



Sam choked with tears. 'Don't despair!' said Strider. 'You must trust me now. Your Frodo is made of sterner stuff than I had guessed, though Gandalf hinted that it might prove so. He is not slain, and I think he will resist the evil power of the wound longer than his enemies expect.

サムは涙をはらはらとこぼしてむせび泣きました。「絶望してはいけない!」と、馳夫はいいました。「この際、お前はわたしを信じなくちゃいけない。お前の大事なフロドはわたしが考えていたより芯が強くできているようだ。おそらくそうだろうとガンダルフがいっていたのを聞いたことがあるが、かれは斬り殺されなかった。それに、敵が期待するよりずっと長くあの傷の恐ろしい破壊力に抵抗するだろうとわたしは思う」
choke =喉を詰まらせる despair =絶望する  trust = 信頼する be made of =〜でできている  stern = 厳しい、断固たる stuff = 素質、才能 guess = 推測する hint =暗示する  prove = 〜であるとはっきり示す  slain = slayの過去分詞 slay =殺す、殺害する resisit = 抵抗する 


'And more deadly to Frodo was this!' He stooped again and lifted up a long thin knife. There was a cold gleam in it. As Strider raised it they saw that near the end its edge was notched and the point was broken off. But even as he held it up in the growing light, they gazed in astonishment, for the blade seemed to melt, and vanished like a smoke in the air, leaving only the hilt in Strider's hand. 'Alas!' he cried. 'It was this accursed knife that gave the wound. Few now have the skill in healing to match such evil weapons. But I will do what I can.'

「そしてそれより恐ろしい打撃をフロドに与えたのはこれだ!」かれはふたたび身を屈め、一ふりの長い細身の短剣を拾い上げました。それは冷たい光を湛えていました。馳夫がそれを持ち上げたのを見ると、刃のふちが刃こぼれし、切先が折れていました。しかしだんだん明るくなる光の中にかれがかざす剣を見つめるうちに、かれらは呆気にとられました。なざなら剣の刃はみるみるとけて、馳夫の手に柄だけを残すと、煙のように空中に消え去ったように思われたからです。「ああ、なんたること!」と、馳夫は叫びました。「傷を負わせたのはこの呪うべき剣なのだ。このような邪剣に抗してよくその傷を癒すことのできる技を持つ者は今はもうほとんどいなくなった。だがわたしはできる限りのことをやってみよう。」
deadly =致命的な  stoop = 身を屈める gleam =輝き raise =持ち上げる
edge =縁 notch = 刻み目をつける  point =切っ先  gaze =じっとみる 
astonishment = 驚き blade = 刃 melt =解ける vanish =消える hilt =柄
accursed = 呪われた few =ほとんど〜ない  skill =技 healing = 治療法
match = 対抗させる 応じる  
一行は受けた傷に苦しむフロドを小馬に乗せ、旅を続けます。小馬に積んであった分を皆で運び、また荒野を進むため、旅は苦しく歩みはのろいものでした。

何日か行くうちに、前を歩いていたピピンがトロルを見た!と叫んで戻ってきます。


Strider walked forward unconcernedly. 'Get up, old stone!' he said, and broke his stick upon the stooping troll.
Nothing happened. There was a gasp of astonishment from the hobbits, and then even Frodo laughed. 'Well!' he said. 'We are forgetting our family history! These must be the very three that were caught by Gandalf, quarreling over the right way to cook thirteen dwarves and one hobbit.'
unconcernedly = 平気で、無関心で  stoop =屈む  gasp =はっとすること
astonishment =驚き  must =〜に違いない very =まさにあの quarrel =喧嘩する
馳夫は平気な顔をしてすたすた前に出て行きました。「起きろ、古い石よ!」かれはそういうと、前屈みになったトロルを打って、棒切れを折ってしまいました。
何も起こりません。ホビットたちは息が止まるくらいびっくりしましたが、やがてフロドまでが笑い出してしまいました。「そうか!」と、フロドがいいました。「わが家の歴史を忘れるところだったよ。これこそ、十三人のドワーフと一人のホビットの料理法についていい争っているところをガンダルフにまんまとひっかけられた例の三人に違いないもの。」 (P237)
unconcernedly = 平気で、無関心で  stoop =屈む  gasp =はっとすること
astonishment =驚き  must =〜に違いない very =まさにあの quarrel =喧嘩する
彼らが見たトロルは、ビルボが彼の冒険で遭遇したトロルでした。ここのところは「指輪物語」の前身である「ホビットの冒険」に書いてあります。映画の方ではこの次のシーンのバックにさりげなく石にされたトロルが出ていました。


また何日も苦しい旅が続きます。ある時彼らはまた馬の蹄の音を聞きますが、どうやら黒の乗手の物とは異なるようでした。やがてエルフのグロールフィンデルが登場します。彼はフロド達一行を捜すべくエルロンドから遣わされ、街道を見回っていたのでした。

グロールフィンデルはこことあと、裂け谷での会議に顔を出すだけです。映画の方では避難を覚悟でグロールフィンデルの役をアルウェンにさせています。わたしもこれはちょっといただけないな、と思いましたが、「登場人物が多すぎて極力減らしたかった」という監督の弁を聞けば納得します。アルウェンは映画では大活躍ですが、原作の方では裂け谷のシーンにもほんの数行現れるだけ、そして実際この指輪の戦争にはアラゴルンの旗印を作り上げるだけのことしかしていません。

これに反して前述のルシアンは実に行動的です。まずベレンに会わせないように幽閉されたところを抜け出し、自分に使える魔法を使い切ってベレンがシルマリルを奪還するのを助けます。女性の活躍が目立つ昨今、おそらくジャクソン監督はアルウェンにもルシアン並みの活躍を望んだのではないでしょうか。

さて、映画の方ではアルウェンがフロドを抱えて街道をひた走りに逃げますが、原作の方ではグロールフィンデルはフロドを自分の馬に乗せ、一行は街道をひたすら歩きます。が、やがて黒の乗手たち全員が彼らを追ってきます。



'Ride on! Ride on!' cried Glorfindel, and then loud and clear he called to the horse in the elf-tongue: noro lim, noro lim, Asfaloth!
「行け!行け!」グロールフィンデルは叫びました。それからかれは大きなはっきりした声で馬に呼びかけました。それはエルフ語でした。「ノロ リム、ノロ リム、アスファロス!」
アスファロスは馬の名前。エルフの馬は疾風のごとく走り去り、フロドを乗せてブルイネンの渡しを超えますが、そこに黒の乗手もやってきます。フロドは最後の力を振り絞って黒の乗手に逆らって叫びます。



'Go back!' he cried. 'Go back to the Land of Mordor, and follow me no more!' His voice sounded thin and shrill in his own ears. The Riders halted, but Frodo had not the power of Bombadil. His enemies laughed at him with a harsh and chilling laughter. 'Come back! Come back!' they called. 'To Mordor we will take you!'
―――中略―――
'By Elbereth and Luthien the Fair,' said Frodo with a last effort, lifting up his sword, 'you shall have neither the Ring nor me!"
「帰れ!」と、かれは叫びました。「モルドールの国に帰って、二度とわたしのあとを追うな!」自分の耳に聞こえた自分の声は細い金切り声でしかありませんでした。乗手たちは立ち止まりましたが、フロドにはボンバディルの威力はありません。かれの敵たちはぞっとするような耳ざわりな声をあげてかれを嘲笑いました。「戻って来い!戻って来い!」と、かれらは呼びかけました。「モルドールにお前をつれて行こう!」
―――中略―――
「エルベレスと美しきルシアンの御名にかけて、」フロドは最後の力をふりしぼってそういうと、剣をふりかざしました。「指輪もこのわたしも、お前たちにわたすものか!」
follow =ついて回る no more =これ以上〜ない  shrill =甲高い halt =止まる
harsh = 無情な、残酷な  chilling = ぞっとする laughter =笑い take =連れて行く
effort =努力  neither A nor B = AもBも〜ない

黒の乗り手達が川を渡ろうとしたとき、突然水かさが増し、彼らは荒れ狂う怒濤に押し流されてしまいます。このところは多くの画家が挿絵に描いていますが、映画はそれらを忠実に表現しており、またCGを使って川の水でできた白の乗手も描いています。


The black horses were filled with madness, and leaping forward in terror they bore their riders into the rushing flood. Their piercing cries were drowned in the roaring of the river as it carried them away. Then Frodo felt himself falling, and the roaring and confusion seemed to rise and engulf him together with his enemies. He heard and saw no more.

黒い馬たちは狂気にとらえられ、恐怖に駆られて、乗手ごと奔流の中に身を投じました。かれらのつんざくような叫び声は、かれらを運び去る轟く水の音にかき消されてしまいました。それからフロドは自分が落馬するのを感じました。轟音と混乱が起こり、かれを敵もろとも呑み込んでしまったように思えました。フロドにはそれ以上何も聞こえず、何も見えませんでした。(P258)
be filled with =〜で満たされる madness =狂気 leap = 跳ぶ in terror = 恐れて
bore <bear = 運ぶ、持っていく  rush = 勢いよく流れる flood =流れ
piercing =突き刺すような  be drowned =おぼれて死ぬ  roar =鳴り響く
confusion =混乱 engulf =〜を飲み込む  



英語版 The Lord of the Rings © The Trustees of The J.R.R.Tolkien 1967 Settlement, 1954, 1966
日本語版 新版 指輪物語 © 1992-2002 評論社   © George Allen & Unwin Ltd, 1954, 1966
映画 "The Lord of the Rings" © Newline Cinema        

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