今ではめっきり少なくなりましたが、映画が上映されていたころ本屋に行くと、「指輪」のコーナーができていて、評論社のあの本が山積みになっている横に、何冊もThe Lord of the Ringsの原書が積まれていました。

まず瀬田貞二訳で原作を読み、さらにトールキンの書いた言語で読みたいと思った方も結構多くおられたのではないかと思います。
しかし何分にも文庫本で9冊という超大作。買ったものの途中で挫折、あるいはほとんど読まずにほっぽってある方もあるかと思います。
このThe Lord of the Ringsはイギリスで行われた「21世紀に残したい本」で第1位に輝いたという、名実ともに20世紀を代表する名作です。
また作者のトールキンはオックスフォード大学の言語学の教授でもあり、その文体は格調高く、ぜひじっくりと読んでいただきたい作品です。

とは言っても、膨大な量の英語に辟易してしまうのももっともです。
このサイトでは、「全部読もう」(そりゃできたら、やってみればものすごく勉強になります)なんて考えは捨て、LOTRのさわり部分をつまみ食いする形で何とか全体像をつかむ助けになればという趣旨で書いています。(取り上げる英文は全体の1〜5%を目安にしているつもりです)

それではともあれとりかかりましょう。映画のDVDをお持ちの方は、もう一度見直してみてもよいでしょう。そして日本語版をお持ちの方は、最初に日本語版を読むのも一つの手です。(ただし最初の「序章」はすっとばしましょう。ちなみにLOTRをRob Inglisという一人の俳優が朗読した46枚組のCDがイギリスででていますが、このCDも「序章」は「王の帰還」が終わった最後に挿入されています。)

ファンの方で映画を見た方も多いと思いますし、映画から興味を持った方もまた多いと思いますので、このサイトでは、原作と並べて、味のある映画の台詞も取り上げていく予定です。


注: 右側の対訳の日本語の後に書いてあるページ数は評論社文庫の「新版 指輪物語」の巻数とページ数です。
英語版は数多く出ているため、ページ数を書くのが不可能と判断し、あえて書いてありません。各章と日本語から判断して原書の該当箇所を探してください。なお英語版はHarper Collins社2001年発行のThe Lord of the Ringsによりました。


英語版 The Lord of the Rings © The Trustees of The J.R.R.Tolkien 1967 Settlement, 1954, 1966
日本語版 新版 指輪物語 © 1992-2002 評論社   © George Allen & Unwin Ltd, 1954, 1966
映画 "The Lord of the Rings" © Newline Cinema        



PART 1 THE FELLOWSHIP OF THE RING




CHAPTER I A LONG EXPECTED PARTY 〜第1章 待ちに待った誕生祝い

The world is changed.
I feel it in the waters.
I feel it in the earth.
I smell it in the air.
For none now live who remember it.
世界は変わってしまった
わたしはそれを水の中に感じる
わたしはそれを大地に感じる
わたしはそれを大気の中に感じる
今ではそれを覚えている者はいない
who remember it は前のnoneを修飾しています。Forは「〜というのは」という理由を表す接続詞です。普通の書き方だと For none who remember it now live. 「それを覚えている人は今では誰も生きていない」となります。
映画の冒頭、ガラドリエルによって語られるプロローグですが、むろん原作の冒頭にはこのような台詞はありません。すると全くジャクソン監督の創作かというと実はそうでもないのです。第3部、「王の帰還」で指輪が滅ぼされた大団円の後、指輪の仲間たちはそれぞれに故郷を目指し、まずは全員でアイゼンガルドにやってきますが、そのときサルマンを見張っていた木の髭の台詞がこれなんです。ピーター・ジャクソンはこのように原作の他の部分や他の人物が語っていた台詞を別の箇所に持ってきて効果的に使うという事をあちこちでやっています。
☆映画では原作と異なり一つの指輪の由来がまず語られますが、BBCのラジオドラマもまたバクシのアニメ編も、ここの構成は原作と異なり、同じように指輪の由来を説明しています。やはりわかりやすいという事なのでしょうね。
このサイトを通して、LOTRを原書で読んでみようという方も、プロローグ「序章」は一切とばして読むことをおすすめします。LOTRにはラジオドラマの他に、俳優の が全編を朗読しているCD47枚組のシリーズもありますが、こちらもプロローグをとばし、しかし「王の帰還」の終わった後にプロローグを読んでいます。確かにプロローグは全編を読み通した後に読むと、にんまりと笑える内容になっていますので、後のお楽しみにとっておいてください。


Time wore on, but it seemed to have little effect on Mr. Baggins. At ninety he was much the same as at fifty. At ninety-nine they began to call him well-preserved; but unchanged would have been nearer the mark. 徐々に過ぎゆく時の歩みも、バギンズ氏にはなんの影響も及ぼさないように見えました。九十歳のかれは五十歳の時と同じでした。九十九歳になると、世間は、持ちのよい人といいはじめましたが、不変の人と呼んだほうがあたっていたでしょう。(指輪物語1 旅の仲間上1 P41)
wear on =(時が)ゆっくりと過ぎる  have effect on ~ = 〜に影響を与える
near the mark =ほぼ正確な
大学時代にLOTRを初めて読み魅力にとりつかれたころ、英文科に在籍していたので、自分の勉強がてらLOTRを自分で訳してみようという無謀な事を考えた事があります。結論から言うと第一章も終わらずに挫折したのですが、まず最初の部分、ここのところでwell-preservedの訳に頭をひねり、瀬田訳を見たところ「持ちのよい人」とあり、あっさりと脱帽しました。(そしてこのような「脱帽」がその先延々と数限りなく続き、わたしは大学二年にして高校時代の夢だった翻訳家を早々にあきらめたのでした)むろんビルボが「持ちのよい人」と呼ばれたのは指輪が彼に影響を及ぼして、見かけ上年をとらなくなってしまったからです。ちなみにビルボは他の点(一人暮らし、ドワーフやガンダルフとの交流、本を書いている、など)でも一般のホビットたちとは異なる生活をしており、ホビット庄の住民からは変わり者と見られていました。
But so far trouble had not come; and Mr. Baggins was generous with his money, most people were willing to forgive him his oddities and his good fortune. so far 今までのところでは  be generous with 気前が良い be willing to 喜んで〜する
oddity 風変わりなところ
At that time Frodo was still in his tweens, as the hobbits called the irresponsible twenties between childhood and coming of age at thirty-three. このときフロドは、まだホビットのいう気楽な二十歳第で、つまり子供時代と、三十三歳で達する成人との間でした。
(P42)
tween (大人と子供の中間between)で通常10歳〜15歳ぐらいですがホビットでは成人が33ですから意訳して「気楽な二十歳代」と訳しています。
irresiponsible ⇔responsible 無責任な   coming of age 成人
But be that as it may, Mr. Frodo is as nice a young hobbit as you could wish to meet. だが、それはそうとして、フロド様は、めったにお目にかかれねえほどりっぱな青年だ。
be that as it may いずれにしても、いずれにせよ
as nice a young hobbit as asの後の語順に気をつけましょう →めったにお目にかかれないほどりっぱな
There isn't no call to go talking of pushing and pulling 押したの引いたのとしゃべくることはねえのさ。
call =理由、根拠

映画
Frodo: You're late.
Gandalf: A wizard is never late, Frodo Baggins. Nor is he early. He arrives precisely when he means to.
Frodo: It's wonderful to see you, Gandalf!
フロド:遅いよ
ガンダルフ:魔法使いは遅れないよ、フロドバギンズ。また早くも来ない。魔法使いは正確に来ようと思った時にくるんじゃ。
フロド:会えて嬉しいよ、ガンダルフ!
nor 〜も〜ない  Nor is he earlyは倒置文になってますね。 
precisely =正確に  mean to ~するつもりだ
これは映画の方の台詞で、原作にはこのシーンはありません。ここでガンダルフは "A wizard is never late."と言っていますが、このあとガンダルフはフロドとの約束の日時に現れず、それがこの話の大きなポイントとなっています。
That very month was September, and as fine as you could ask その今月が九月で、これ以上望むべくもないお天気続きでした。 (P49)
as fine as you could ask =お願いできるのと同じぐらいの良い天気→これ以上望むべくもないお天気続
fireworks, what is more, such as had not been seen in the Shire for nigh on a century, not indeed since the Old Took died. おまけに、その花火たるや、このホビット庄ではもう一世紀近くも見られなかったほどのすばらしいものらしいというのです。実際トゥック翁が死んでからというもの、花火は耐えてありませんでした。(P49)
what is more さらに、その上  nigh=near 近く 
such as had not been seen 〜では見られなかったほどのすばらしい物

My dear People, began Bilbo, rising in his place. 'Hear! Hear! Hear!' they shouted, and kept on repeating it in chorus, seeming reluctant to follow their own advice.  「親しい皆さん」ビルボは立ち上がって、口を切りました。「謹聴!謹聴!謹聴!」一同の叫ぶ声はコーラスになってくりかえされ、だれも自分ではそうしたくもないのに「謹聴」と繰り返していました。(同 P59)
keep on ~ing 〜し続ける  reluctant to do 〜することに気が進まない
their own advice(自分自身のアドバイス)とはもちろん'Hear!'という声の事です。
ビルボの誕生パーティーのシーンです。しかしこのパーティーに呼ばれたホビットたちは、どう見てもビルボの111歳の誕生日を祝うのではなく、ひたすらただで飲み食いできるから(しかもご馳走を!)来たようですね。

ちなみにパーティーで、招待客を○○家のみなさん!と呼び上げるシーンがありますが、その中で "Proudfoots"(日本語版では足高家)と呼ぶと、大きな足をテーブルに上げたMr. Proudfootが"ProudFEET!"(上足家)とやり返すシーン。あれ、実はバクシのアニメの「指輪物語」のシーンとアングルなど同じです。ジャクソン監督がバクシへのオマージュとして入れたシーンだそうです。

ところで映画ではパーティーのさなか、メリーとピピンがガンダルフの花火をいたずらして打ち上げてしまうシーンがありますが、これは原作にはありません。でも「好奇心の強い」彼らならやりかねないし、こうして二人のキャラクターをうまく紹介している訳です。ちなみに彼らはいたずらの後、ガンダルフに捕まって、すすだらけの顔のまま皿洗いをさせられますが、あのすすだらけメイクをするのに40分ほどもかかり、メイクができたところで二人は思わず「チムチムチェリー」を歌ったそうです。


I don't know half of you half as well as I whould like; and I like less than half of you half as well as you deserve. This was unexpected and rather difficult. There was some scattered clapping, but most of them were trying to work it out and see if it came to a compliment. (Chapter1 A Long-Expected Party) 「ここにおられる半数の方々に対しては、存じ上げたいと思うことの半分しか存じ上げておりません。また皆さんのうち半数以下の方々に対しては、その方々が受けてしかるべき好意の半分しか抱いておりません。」この部分は予期しない表現であり、いささか難解でした。まばらな拍手があっただけで、大多数は一生懸命頭をひねって、はたしてこれはほめ言葉なのかどうか考えようとしていました。(同 P63)
half as 〜 as ~ ~の半分だけ〜な  (as well asで「〜だけではなく」という熟語がありますが、ここでは違います)
less than = 〜以下 ⇔ more than 〜以上   
deserve =〜に値する   unexpected= 予期しない  scattered= まばらな
clapping= 拍手  work out =(なぞなどを)苦労して解く come to = 〜になる   compliment =ほめ言葉
ビルボの演説の一節です。すぐ前の部分と異なり、この部分は実にわかりにくい文が並んでいます。ホビットたちが頭をひねったのも無理はありません。ですが「〜の半分」などという表現はなかなかわかりにくい表現なので、瀬田訳と並べてじっくりと読んで理解してみてください。ここの台詞は映画にも使われていましたが、イアン・ホルム扮するビルボは結構この台詞を早口で言っていました。それにしても瀬田訳は実に鮮やかに正確に訳しています。
さてこの後ビルボは指輪を使ってホビットたちの前から姿を消し、一人こっそりと家に帰ります。
For the moment most of them took it for granted that his disappearance was nothing more than a ridiculous prank. しばらくの間は、たいていの者が、かれの姿が見えなくなったことを、ばかばかしい単なるたわむれと考えてあやしみませんでした。(P65)
take it for granted that 〜を当たり前に思う、当然に思う
nothing more than 〜に過ぎない ridiculous prank ばかげた悪ふざけ
He(Frodo) had enjoyed the joke, of course, even though he had been in the know. He had difficulty in keeping from laughter at the indignant surprise of the guests. フロドは前もって承知はしていたのですが、それでももちろんあの冗談をとてもおもしろいと思ったのでした。客達が驚き憤慨するのを見て、笑いをこらえるのに苦労しました。
be in the know 事情をよく知っている  had difficulty in --ing 〜するのに苦労した
keep from laughter 笑いを押さえる  indignant 憤慨した
'I am old, Gandalf. I don't look it, but I am beginning to feel it in my heart of hearts. Well-preserved indeed!' he snorted. 'Why, I feel all thin, sort of stretched, if you know what I
mean: like butter that has been scraped over too much bread. That can't be right. I need a change, or something.'
「ガンダルフ、わたしは年をとった。そうは見えないでしょうが、自分ではもうひしひしとそれを感じ始めているんです。『持ちのいい人』か、まったくね!」ビルボはそういって、ふんと笑いました。「そう、何というか、薄っぺらになったという感じ、わかるでしょう。『引っ張って引き延ばされた』っていう感じなんですよ。少ないバターを大きすぎるパンの上になすりつけたようなもんです。こいつはとてもまともなこっちゃない。わたしには、変化というか、何かが必要なんです。」 (同 P69)
look 見るではなく「見える」 itはここではoldのこと  snort =鼻をフンと鳴らす
stretch =引き延ばす  scrape=こすりつける 
can't be =〜のはずがない right =正しい
「少ないバターを大きすぎるパンの上になすりつけた」…うまい表現だと思います。
I have thought of a nice ending for it: and he lived happily ever after to the end of his days. すてきな結びの言葉は、もう考えてあるんです。「そしてかれは、一生を終えるまでずっと幸せに暮らしました」とね。
ever after その後ずっと  to the end of his days 〜が死ぬまで
ビルボが自分の本の最後について語るシーンです。
'You'll keep an eye on Frodo, won't you?'
'Yes, I will- two eyes, as often as I can spare them.'
「フロドの事は気をつけてやっていただけますね?」
「しかと承知した―この二つの目で及ぶ限り気をつけて進ぜよう」(同 P70)
keep an eye on ~ = 〜を見守る spare =気を配る
フロドの事をガンダルフに頼むビルボ。keep an eye onというのは熟語ですが、ガンダルフがtwo eyesと言い返しているのがおもしろいです。訳文も自然でさすがです
'He would come with me, of course, if I asked him. In fact he offered to once, just before the party. But he does not really want to, yet. I want to see the wild country again before I die, and the Mountains; but he is still in love with the Shire, with woods and fields and little rivers. He ought to be comfortable here. I am leaving everything to him, of course, except a few oddments. I hope he will be happy, when he gets used to being on his own. It's time he was his own master now.' 「わたしが頼めば、もちろんフロドも一緒に来てはくれるでしょう。現に、宴会のすぐ前にも、そういってくれたのです。でもあれは本心はまだここを立ち去りたくはないのです。わたしは死ぬ前にもう一度荒れ地が見たい。山々が見たい。だが、あれはまだまだ、守との原と小川の美しいこのホビット庄にぞっこんほれこんでいます。フロドはここで気楽に暮らすべきです。むろんわたしは、何もかもあれに遺していくつもりですよ。二、三のがらくたは別ですが。おいおい独りでやって行くことに慣れて幸せになるように、と思いますよ。もう自分で万事宰領していい年ですからね。」(同 P70)
He would come...... if I asked him. ではwould,及びaskedと過去形を使っていますが、これは仮定法過去の用法で、実際はビルボは頼まなかったし、フロドも一緒には来ないという現実の反対を言っている言い方です。仮定法の言い方はこういう状況がきちんとわかっているところで一つ覚えてしまうと、感覚が身に付きますよ。
offered to, want toの後にはそれぞれcome with meが省略されています。
be in love with  〜に恋をしている、ほれている、〜を好む
  普通は恋人につかう熟語ですが、the Shireに使っていますね。「ぞっこんほれこんでいる」なんて表現が綺麗です。また最後のhe was his own master nowも簡単な英語ですが、「自分で万事宰領して」という訳。頭が下がります。
ought to ~ 〜すべきだ   leave ~残していく  oddment がらくた
get used to --ing 〜することに慣れる。 toは前置詞なので、後ろは動名詞になります。
ビルボのフロドに対する愛情がじっくりと語られているシーンです。どうもビルボというと、指輪を拾ってきたものの、結果的にフロドに後始末をさせてしまったという訳で、わたしはあんまりいい印象を持っていないんですが、フロド自身もビルボを慕っており、あちこちにそんな感情を現す文が見受けられます。
それにしても瀬田貞二氏の訳は本当に綺麗です。こうして訳文を打っていると、しみじみ美しい日本語に訳しているなと思います。もっと量を減らさないといけないと思いつつ、思わず長くなってしまいます。

ここのところは物語にとって重要な部分なので、映画の方でも台詞を短くして、ほとんどそのまま使っていますね。
映画版はこちら
Bilbo: He'd probably come with me if I asked him. I think in his heart, Frodo's still in love with the Shire. The woods, the fields, little rivers.
I'm old, Gandalf. I know I don't look it, but I'm beginning to feel it in my heart. I feel thin.
Sort of strretched, like butter, scraped over too much bread.
I need a holiday. A very long holiday.
And I don't expect I shall return. In fact, I mean not to.
'.....I'm not a thief, whatever he said.'
'I have never called you one, 'Gandalf answered. 'And I am not one either. I am not trying to rob you, but to help you. I wish you would trust me, as you used.' He turned away, and the shadow passed. He seemed to dwindle again to an old grey man, bent and troubled.
「あいつがどういおうと、わたしは泥棒ではない。」
「わしは一度だってあんたを泥棒呼ばわりした覚えはない。」と、ガンダルフは答えました。「それに、わしも泥棒ではないぞ。わしはあんたから指輪を奪おうとしているのではない。あんたを助けようとしているのじゃ。いつもそうだったように、あんたがわしを信じてくれればよいのよ。」こういってガンダルフは顔をそむけました。影は消え去りました。かれの姿はたちまちしぼみ、腰の曲がった、やつれた、もとの灰色の老人にもどってしまいました。(同 P74)
whatever he said 彼が何を言おうとも 
one =ここではthief    not ~ either 〜も〜ない  
notAbutB AではなくB A,Bにはさまざまな品詞の語がこれます。
rob =盗む   trust =信頼する dwindle =だんだん小さくなる
bent =(腰の)曲がった(bendの過去分詞)   troubled =困ったような
ここでの彼とはゴクリ(映画でのゴラム)です。
ここの話は指輪物語の前作にあたる「ホビットの冒険」に登場しますが、ゴクリと暗闇の洞窟で遭遇したビルボは、ゴクリと謎かけ合戦をする間に、床に落ちていた一つの指輪を拾います。詳細はそちらの話を読んでみてください。

指輪をガンダルフに渡そうとしない(むろんこれも指輪の影響です)ビルボにガンダルフは自分の本当の姿を現します。映画ではなかなか迫力のあるシーンでした。

またoneは前に出た単語の繰り返しを避けるために用いられますが、Show me the brown one.などと形容詞が付くとtheをつけて使われる事が多いです。
しかしこのような形容詞の付かない例では、I have never called you oneとかI am not one either.とtheをつけずに使われています。
最後に袋小路屋敷を出る際にも、指輪が捨てられなくて一悶着あるのですが、ともあれガンダルフの助けを借りて、ビルボは指輪をフロドに譲り、ホビット庄を後にします。

The Road goes ever on and on
Down from the door where it began.
Now far ahead the Road has gone,
And I must follow, if I can,
Pursuing it with eager feet,
Until it joins some larger way
Where many paths and errands meet.
And whither then? I cannot say.
道はつづくよ、先へ先へと、
戸口より出て、遠くへつづく。
道はつづくよ、さらに先へと。
道を辿って、わたしは行こう。
はやる足をふみしめながら、
いつかゆきあう、より広い道へ、
多くの小道と多くの使命が、
そこに落ちあう、より広い道へ。
そこからさきは、わたしは知らぬ。(同  P78)
go on = 続く  far ahead =遠くに  pursue =追う、追い求める
eager =熱望する、  path =小径  errand =任務  whither (古)どこへ、どちらへ
原作でビルボが旅立つ時に歌っていた歌です。この歌はビルボが歌うのをフロドも何度か聞いたのでしょうか、実は同じような歌をフロドも旅の始まりに歌います。映画ではガンダルフが馬車に乗って登場するシーンでこの歌を歌っていました。
なおこのThe Road Goes Ever Onは曲をつけた楽譜が出版されており、実際に歌っているCDがついています。
原作でも映画でも、誕生パーティのあと、ガンダルフはいったんホビット庄を去ります。この間、ガンダルフはゴンドールのミナス・ティリスに赴き、一つの指輪についての古い情報を調べます。彼が再びホビット庄に顔を見せるのは、映画の方では数ヶ月後ぐらいのように描いていますが、原作では17年の月日がたっています。
It was a tendency of hobbit-holes to get cluttered up: for which the custom of giving so many birthday-present was largely reponsible. どうもホビット穴というものは散らかりやすい傾向があったようです。その原因の大半は、やたらに誕生祝いの贈り物をやりたがる習慣にありました。
tendency 傾向   get cluttered 散らかる<clutter 散らかす
custom of Ving 〜する習慣
be responsible for 〜 Sが〜の原因である →a tendency of hobbit-holes to get clutterred upがfor whichの先行詞

Chapter 1 A Long-expected party  上記以外で気付いた単語などです。NEW

eleventy 110。WiktionaryによるとLotRで広く知られるようになった表現だそうです。
remained on visiting terms with 行き来する仲
tongues began to wag うわさ話が始まった >wag しきりに動く
be partial to〜が好き
vittle 飲食物
all and sundry ありとあらゆる人、誰も彼も
the like 〜のような物

let off〜を発射する、〜を爆発させる
squib 爆竹
backarapper  ガンダルフが持ち込んだ花火の種類を書き並べてある個所ですが、実はこの単語は英辞朗にも載っていませんでした。ググったところ、ほとんどがLotrがらみのサイトで、a cracker with several folds giving a rapid succession of explosions だそうです。
瀬田訳ではこのbackarapperを百雷、sparklersを流星、torchesを炬火(きょか。たいまつの古語)と訳しています。LotRを読んでいると、しばしばこういったとんでもない単語に巡り会います。まあ、こんなの覚えなくてもいいんですけど。またこの単語を調べていて、トールキンのファンがLotRに使われている単語や表現で質問したりしているのを見つけました。ネイティブにとっても難しいレベルの単語が使われているんですね。(^^;)

sparkler 線香花火
thunder-clap はたた神。ちなみに「はたたがみ」とは、霹靂神で「はたたく神」の意で激しい雷だそうです。
瀬田訳を読んでいると、瀬田氏の日本語の知識の奥深さには本当に驚かされます。thunder-clapの方が遙かに易しいです。

superb すばらしい、見事な
scintillate花火を放つ、光を放つ
(これらの花火は、映画でも一部CGによって再現されていましたね。なお映画でも再現された花火のdragonは海外ファンサイトによるとSmaugなんだそうです。)

phalanx 密集軍、密集した動物
whizz ひゅーっと鳴る、風を切って飛ぶ
duck 身をかがめる
somersault とんぼ返り、宙返り

well merited 十分に見合っている
deafening耳をつんざくような
which did not convery much to 〜にはたいした意味もなかった
impromptu orchestra 即興のオーケストラ
make an impression 注意を引く
pricked up their ears 聞き耳をたてた

obstinate silence かたくなな沈黙
imminent 迫り来る、今にも起ころうとしている

blinding flash of light 目も眩むばかりの光
flabbergasted びっくり仰天した
sit back 座って動かない
dead silence しいんと静まりかえって
drain 〜を飲み干す

battered black-leather scabbard 使い古した黒い皮の鞘
stuck it in his pocketそれをポケットにつっこんだ
let alone 〜だけでなく
interfering 干渉する
busybody お節介焼き

part with〜と分かれる
curious change came over his voice. 彼の声に奇妙な変化が起こった
badger 困らせる

grave 厳しい
attentive 注意深い

uncloak マントを脱ぐ、仮面をはぐ、暴露する
the only point I ever saw in the affair, この出来事の中の唯一の重要な部分
(瀬田訳:それだけは肝心要とふんだ一件)

well, that's that それで決まった。さあ、すんだぞ(瀬田訳:さてさて、これで落着)
Now I'm off. もう発ちます

that is saying a great deal それはたいしたことだ
I am being swept off my feet at last. 私はもう夢中になっている
< be swept off one's feet by 〜に夢中になる

I wish--I mean, I hoped until this eveing that it was only a joke.
瀬田訳:これが冗談だったら―いや、ついさっきまで、ただの冗談でありますようにと思ってたんです。
I wishはI wish it was only a joke. の略。「これが冗談だったら良いのに」→これ(ビルボの旅立ち)が冗談でないと知っている意味。 I hopeは(事実がどうであれ)冗談でないことを望んでいた、の意味

inadvertently 不注意に
shrub 低木

ream of 大量の

capital fellow いいやつ
had a very trying time やっかいな時を過ごす
in the middle of commotion 騒動の真っ最中に
Otho would have been Bilbo's heir, but for the adoption of Frodo.
「フロドが養子に迎えられなければ、オソがビルボの跡継ぎになるところだったのです。」
but for 〜がなければ
adoption 養子縁組、採用
heir 跡継ぎ
would have been ~ 〜だっただろう

He snapped fingers under Frodo's nose and stumped off. フロドの鼻先で指をぱちんとはじいて出て行った
under one's nose〜の鼻先で
stump どしんどしんと歩く

premise 屋敷、構内
relieve 〜of 人から〜を取り上げる

as if she was in the throes of thinking out..
まるで〜を考えている

thrree young hobbits (two Baffins and a Bolgder) 「3人の若いホビット達(ボフィン家の子二人、ボルジャー家の子一人)」
☆〜家の者という場合には名前に複数形のsがついたりa がついたりします

He had hardly sat down, when there came a soft knock at the front-door.
hardly....when 〜 ...するやいなや〜した

Do be careful of that ring, Frodo!  あの指輪にはくれぐれも気をつけろ(doで強調)

pester しつこく悩ます
No secrets between us 我々の間では秘密はなしにしよう
but they are not to go any further だがそれ以上はいくべきでない(秘密は外に漏らすな)→theyはsecretsを受けている

I couldn't see the point of altering it at all.
「どうしてそれ(指輪を拾った話)を言い換えたのかわからない」
see the point 要点を見て取る

Let it be a warning to you to be very careful with it. 「これを戒めとして、くれぐれもあれの扱いには気をつけるべきじゃ」
let it be a warning to ~ それをおまえの戒めとしなさい

accuse me of spiriting Bilbo away ビルボをさらっていった事でわしを非難する
accuse 人 of =人を〜の事で非難する
spirit 人 away 〜をさらう (なお「千と千尋の神隠し」の英語タイトルはSpirited away)


なお、The One Ringという海外のファンサイトのforumでThe Annotated LOTR (注釈付きの指輪物語)というスレッドを見つけてしまいました。こちらです。固有名詞他をマニアックに説明してくれて楽しいです。
なおbackarapperの項目の説明はこちらのforumに頼りました。



第2章 THE SHADOW OF THE PAST 〜 過去の影


さて久しぶりに袋小路屋敷を訪れたガンダルフは実験の後、恐ろしい事実をフロドに告げます。ビルボから譲り受けた指輪がサウロンが作った一つの指輪だと言うのです。映画の方ではプロローグで語られた指輪についての説明が原作ではここでガンダルフの説明の形でなされます。

die down 収まる
for a year and a day 丸一年間
in the meantime 一方
cracked= crazy
run off into the Blue 突然消え失せる
untimely 早過ぎる
hardly an untimely end 早過ぎる死ではなかった
lay the blame on --- 〜に責任を負わせる、〜を人のせいにする
The blame was mostly laid on Gandalf.「そして悪者にされるのはたいていガンダルフでした」
settle down 落ち着く
to all appearance 見たところ、どう見ても
go into mourning 喪に服する
in honor of 〜をたたえて
... which he called Hundred-weight Feast. But that was short of the mark, for twenty guests were invited and there were several meals at which it snowed food and rained drink, as hobbits say. フロドはこれを百十二ポンドの会と呼びました。しかしこの名は適当とは言えませんでした。なにしろ、招かれたお客は二十名、食事は数回、その度に、料理も飲み物もホビットの言い方に従えば、雨よ雪よとそそいだからです。(P92)
hundred-weight 重さの単位。ハンドレッドウェイト=112ポンド。112ポンドは約50kgですから、「20名のお客で食事は数回、その都度料理も飲み物も雨よ雪よとそそいだ」という祝宴をホビット達が short of the markというのも無理はありません。
short of the mark 的に届かない、腑に落ちない
it snowed food and rained drink →googleで検索したところほとんど豪華なパーティーのシーンでした。
ramp 放浪する
sensible 分別のある
suspect 〜ではないかと疑う
outwardly外見上は
retain 保つ、持ち続ける
robust がっしりした
it was not until -- that -- 〜して初めて〜する

in unusual numbers 普通でない数で

little of all this reached the ears of ordinary hobbits
これらのほとんどはホビットの耳には入って来なかった

tell 話、物語、うわさ話
there's no call to 〜する必要はない
get a general laugh 皆の笑いを誘う
"But this one was as big as an elm tree, and walking--walking seven yards to a stride, if it was an inch"
"Then I bet it wasn't an inch. What he saw was an elm tree, as like as not."
「それでもそいつは楡の木ほどの大きさで、歩いてた--七ヤードを一跨ぎでよ。まちがいなく七ヤードだと。」
「まちげえねえかよ。ハルが見たのは、楡の木よ。まちげえねえ。」
if it was an inch =仮定法過去なので、直訳すれば「もしそれが1インチなら(当然1インチなどではない→当然もっと大きい」の意味。「確かにずっと大きい」という大きさを強調した言い方。
ググってみましたが、多くの場合 "大きな数字"+if it was an inchという使い方です。
瀬田訳では「まちがいなく7ヤード」とあざやかに訳しています。
as like as not おそらく、たぶん
なお、この「楡の木ほどの大きさで歩いていた」物は後に出てくるエントを指しています。
you'll never want for moonshine 瀬田訳:おまえもたわけ話にことかかねえだろうぜ。
want for 〜に欠ける
moonshine ばかげた考え
But Sam had more on his mind than gardening. 「しかしサムの心にかかるのは庭仕事のほかにありました。」→この部分はサムがすでに指輪のことを知っており、フロドがホビット庄を離れるかもしれないと案じていた事を言っていると思います。
on somone's mind (人の)気にかかって
careworn 心労でやつれた
press him for news of himself 彼自身の事を聴かせてくれるようせがんだ
press for 〜を強く求める
...and the new green of Spring was shimmering in the fields and on the tips of the trees' fingers.
野にも木の梢にも、新しい春の緑がつやめいていました。
いえ、特にどうって事はないんですが、英語も日本語もとても美しい表現なので…。木の梢はtrees' fingersって言うんですね。
his face (was) more lined with care and wisdom 彼の顔は心労と叡智のしわがさらに刻まれていた
line (他動)しわを刻む
such matters were best left until daylight そんなことは昼の光まで待つ方がよい
The lesser rings were only essays in the craft 力の弱い指輪は技術の点からは試作品だった
essay 試み、企て
craft 技術、手技
trifle つまらないもの
perilous 危険な
obtain more life さらに活力を得る
Bilbo knew no more than he told you. ビルボはおまえに話しただけしか知らない。
no more than ただ〜にすぎない、〜しかない
the thing needed looking after それ(指輪)は気を配る必要があった
(needの後のVingは受け身の意味を表す。ここでは指輪が気をつけられるという関係)

Bilbo never connected it with the ring ビルボはそれを指輪と結びつけて考えなかった

He took all the credit for that to himself それをすべて自分の手柄にした (瀬田訳:かれはそれを自分の徳として)

one might say 〜と言う人もいるかもしれない→〜と言ってもよかろう

'What a pity that Bilbo did not stab that vile creature, when he had a chance!'
'Pity? It was Pity that stayed his hand. Pity, and Mercy: not to strike without need. And he has been well rewarded, Frodo. Be sure that he took so little hurt from the evil, and escaped in the end, because he began his ownership of the Ring so. With Pity.'
「ビルボがあの機に、あの下劣なやつを刺し殺してくれればよかったのに、なんて情けない!」
「情けないと?ビルボの手をとどめたのは、その情けなのじゃ。無用に刺さぬ、これが情、慈悲じゃ。フロド、されば、かれは十分に報われたぞ。悪の害を受けること少なく、結局そこから逃れええたのは、かれが指輪の所有者となった時にそういう気持ちがあったからじゃ。情があったからじゃ。」(同 P134)
What a pity! それは残念だ! stab= 刺す  vile =卑劣な、下劣な
creature =生き物、やつ  It was Pity that stayed his hand. =It is .... that ~ という強調構文
strike =打つ、突き刺す、 reward=報いる  hurt =損害  evil =邪悪なもの
ownership =所有権
pity この単語は、憐れみ、同情 という意味と、残念な事、惜しい事という二つの意味があります。フロドの言っているWhat a pityはビルボが刺し殺さなかったのは残念だ、という意味で使っていますが、それを聞き返したガンダルフの方では、「彼の手を止めたのはその憐れみじゃ」というようにもう一つの意味で使っています。これを瀬田氏は、「情けない」と「情け」を使ってでまるで掛詞のように訳しました。ガンダルフがフロドの使った言葉をそのまま使って、フロドにそっくり返しながらも、物事の深みを見きわめ、教え諭しています。原文も訳文も圧巻です。

この部分はこの物語の根幹をなす重要な部分であるため、映画の方でもそっくりそのまま使っています。ただ、原作ではフロドを訪れたガンダルフが指輪の由来を話すシーンで語られるのに比べ、映画の方ではモリア坑道の中で、ゴラムの存在に気づいたフロドに、ガンダルフが話すという設定になっています。
映画版はこちら

Frodo: It's a pity Bilbo didn't kill him when he had the chance.
Gandalf: Pity? It's a pity that stayed Bilbo's hand. Many that live deserve death. Some that die deserve life. Can you give it to them, Frodo? Do not be too eager to deal out death and judgement. Even the very wise cannot see all ends. My heart tells me that Gollum has some part to play yet, for good or ill, before this is over. The pity of Bilbo May rule the fate of the Ring.


'He deserves dearh.'
'Deserves it! I daresay he does. Many that live deserve death. And some that die deserve life. Can you give it to them? Then do not be too eager to deal out death in judgement. For even the very wise cannot see all ends. ―――中略――― My heart tells me that he has some part to play yet, for good or ill, before the end;
「(彼は)死んだっていいやつです。」
「死んだっていいとな!たぶんそうかもしれぬ。生きている者の多数は、死んだっていいやつじゃ。そして死ぬる者の中には生きていてほしい者がおる。あんたは死者に命を与えられるか?もしできないのなら、そうせっかちに死の判定を下すものではない。すぐれた賢者ですら、末の末までは見通せぬものじゃからなあ。――中略――わしの心の奥底で声がするのじゃ。善にしろ悪にしろ、かれには死ぬまでにまだ果たすべき役割があると。」(同 P135)
deserve =〜に値する 〜してもおかしくない  daresay=多分、おそらく
eager =〜したいと思う。熱望する  deal out =分配する judgement =審判、判決
the wise =賢者 the+形容詞で「〜な人々」の意味 
ガンダルフはここでゴクリにはまだ「果たすべき役割がある」と感じていますが、それがどんな役割なのかはさすがの大魔法使いでもわかってはいません。しかし物語の最後、ゴクリは実に重要な役回りを演じます。こうして一つ一つ読んでいくと、実にLOTRはあちこちに伏線が張り巡らされているかがよくわかります。


'...I wish I had never seen the Ring! Why did it come to me? Why was I chosen?'
'Such questions cannot be answered,' said Gandalf. 'You may be sure that it was not for any merit that others do not possess: not for power or wisdom, at any rate. But you have been chosen, and you must therefore use such strength and heart and wits as you have.'
「こんな指輪なんか目にしなければよかったのに!なんでこんなものがわたしのところにきたんでしょう?なぜこのわたしが選ばれたんでしょう?」
「そのような問いは、だれにも答えられん。」と、ガンダルフは言いました。「ただ、そうなったのは何も、他の者が持たぬ長所のせいではなし、力や知恵のせいでもないことは、自分でしかとわかっておろうな。しかしすでにあんたは選ばれてしまった。そこであんたは、もてる限りの力と勇気と知力をふるいたてなければならんのじゃ。(同 P138)
I wish ~ =〜だったらよかったのに  may =〜だろう be sure =〜は確かだ  possess =所有する
merit =長所  wisdom =知恵  therefore =それゆえ  such A as .... ...するようなA
ここもこの前の部分と同様、この物語の根幹をなす思想が表れている部分だと思います。「なぜ自分が」というフロドの問いはごく自然の物ですが、その問いにガンダルフは「すでに選ばれてしまったのだから持てる限りの力と勇気と知力をふるいたてなければ」と諭します。映画では前の部分同様、モリア坑道で語られています。
映画版
Frodo: I wish the Ring had never come to me. I wish none of this had happened.
Gandalf: So do all that come to see such times, but that is not for them to decide. All we have to decide is what to do with the time that is given to us. There are other forces at work in this world, Frodo, besides the will of evil. Bilbo was meant to find the Ring. In which case you were also 'meant' to have it. And that is an encouraging thought.
I wish ~ =〜ならばよかったのに (過去の事実に反することを言う、仮定法過去完了の用法で、I wish以下がhad never come, this had happened と過去完了になっています。)
force =力 at work=働いている besides=〜の他に  will =意志
be meant to =〜になる運命である、意図されている
encouraging =元気づけられる、励みとなる
「我々が決めるべきことは、与えられた時に対して何をすべきかだ」上の原作同様、一種諦めに似ていながらも、実に前向きな考えが語られています。


'I should like to save the Shire, if I could---though there have been times when I thought the inhabitants too stupid and dull for words, and have felt that an earthquake or an invasion of dragons might be good for them. But I don't feel like that now. I feel that as long as the Shire lies behind, safe and comfortable, I shall fiind wandering more bearable: I shall know that somewhere there is a firm foothold, even if my feet cannot stand there again.' 「もしわたしにできることなら、ホビット庄を救いたいのです――時にはわたしも、ここの連中ときたらお話にならないくらい馬鹿で退屈で、いっそ地震か竜にでも襲われたほうがいい、なんて思ったもんですが。でも今はそうは思いません。自分があとにするホビット庄が安全で住み心地のよい土地としてある限り、わたしは放浪の旅がより耐えやすいものになるだろうと思いますよ。たとえこの足でふたたびそこに立つことができないにしろ、どこかにしっかりとした足がかりがあるとわかっていればそれでいいんです。」(同 P141)
should like to = 〜したいのですが (would like toよりも控えめなためらった言い方)
inhabitant =住民 stupid =おろか dull =頭の鈍い、退屈な
earthquake =地震  invasion =侵略 as long as=〜かぎり
find O C =OがCであるとわかる    wander =さまよい歩く
bearable =耐えられる shall =〜でしょう firm =固い  foothold =足がかり
ガンダルフもフロドのこの考えの変化に感動していますが、結局フロドが最後まで指輪を捨てることを諦めずに進み続けられたのは、自分の故郷への思い、故郷を守りたいという思いでした。それがあるからこそ、最後の最後に出てくるフロドの台詞「the Shire was saved but not for me 」が痛々しく突き刺さります。命を賭けて故郷を守ったフロドは、結局自分はその故郷に癒されることなく終わるのです。


'My dear Frodo!' exclaimed Gandalf. 'Hobbits really are amazing creatures, as I have said before. You can learn all that there is to know about their ways in a month, and yet after a hundred years they can still surprise you at a pinch. I hardly expected to get such an answer, not even from you. But Bilbo made no mistake in choosing his heir, though he little thought how important it would prove. 「ああ、フロドよ!」ガンダルフは感嘆の声をあげました。「ホビットというのは、まことに驚嘆すべきともがらじゃ。わしがかねていっておった通りじゃぞ。ホビットの暮らし方ぐらい一ヶ月もあれば知り尽くせる。ところが、百年つき合ってみたって、いざという場合のホビットたちには驚かされるほかはないな。わしは、たとえあんたからでも、こんな答えが聞かれるとは、ほとんど予想もしなかった。それにしても、あんたのような跡継を選んだビルボの目に曇りはなかったのう。もっとも、どんな重大なことになるかは、考えてもみなかったじゃろうが。」(同 P142)
exclaim =叫ぶ amazing =驚くべき creature =やつ、生き物  
and yet=しかしながら  pinch=ピンチ  hardly =ほとんど〜ない  expect =期待する
make a mistake =間違いをする  in ~ing =〜する際に  heir =跡継ぎ
little =ほとんど〜ない prove= 〜であるとわかる
ここもホビットのホビットらしさ(?)が書かれている点だと思います。映画の方でも使われていますが、なんと一度はこの台詞はカットされてしまったそうです。しかしガンダルフ役のイアン・マッケランがどうしても入れたいと主張して復活したという訳です。
映画版
Gandalf: My dear Frodo. Hobbits really are amazing creatures. You can learn all that there is to know about their ways in a month, and yet after a hundred years, they can still surprise you.
フロドよ、ホビットはまさに驚くべき輩じゃなあ。ホビットの暮らしぶりなんて一月もすればわかる。しかし百年たっても驚かされることばかりじゃ。
all that there is to know about their ways 彼らのやり方について知らなければならないことすべて
and yet しかし  




第3章  THREE IS COMPANY 〜三人寄れば


To tell the truth, he was very reluctant to start, now that it had come to the point. Bag End seemed a more desirable residence than it had for years, and he wanted to savour as much as he could of his last summer in the Shire. 実をいいますと、フロドは、いよいよという段になって、すっかり気乗りがしなくなったのです。もう何年もここに住んでいながら、袋小路屋敷がこんなに好ましい住居に思えたことはありませんでした。それにフロドはホビット庄での最後の夏を存分に味わっていきたいと思いました。(同 P148)
to tell the truth=実を言うと  reluctant =〜したくない、気が進まない
now that =いまや〜だから   come to the point =本題に入る
desirable=好ましい  residence =住居  savour =(ゆっくり)味わう
as much as he could =できるだけ多く
映画ではガンダルフの説明を聞いた後、すぐにフロドは旅立ちますが、原作ではかなり時間の差があります。(約半年)また原作ではフロドはバック郷に引っ越すとふれこんで袋小路屋敷を去ります。ガンダルフは引っ越しまでには来て、フロドと共に旅立つ予定でしたが、結局現れず、フロドはやむなくサムとピピンの3人で旅立ちます。(メリーは引っ越しの荷物を馬車に積んで、一足先に出かけていました。)映画の劇場版の方では割愛されていますが(SEE版では入っています)、この袋小路屋敷を去る際に黒の乗り手(ナズグル)が現れフロドを探します。が、すんでの所で彼はナズグルとは顔を合わせずに出発します。
LOTRは原作や映画の他に、ラジオドラマ化されたものがCD13枚組になって売られています。こちらは映画よりも原作に近いですが、やはりこの膨大な作品をラジオドラマにしたため、あちこち割愛された部分もあります。またこのラジオドラマの方は、原作にも出てこない、「失われた物語」の方に表れる部分も一部含んでいます。その部分ではガンダルフが、もう一人の魔法使い「茶色のラダガスト」に出会い、そしてなぜガンダルフが約束の日時にホビット庄に来れなかったが克明に説明されています。
映画でこの話になじんだ方はぜひこちらのCDも手に入れて聞いてみてください。映画よりも発音が非常に明瞭で聞き取りやすく、数々の俳優がそれぞれの役を演じ、効果音なども入って臨場感のある作りになっています。


'I wonder if I shall ever look down into that valley again' 「はたしてあの谷間をまたこうして眺めることがあるだろうか。」(同 P161)
I wonder if =〜かしら 
ホビット庄の景色を眺めながらのフロドの独り言です。こういう言葉から彼はホビット庄を去るという事を友人たちに見抜かれてしまっています。


I can hear a pony or a horse coming along the road behind,' said Sam.
They looked back, but the turn of the road prevented them from seeing far. 'I wonder if that is Gandalf coming after us,' said Frodo; but even as he said it, he had a feeling that it was not so, and a sudden desire to hide from the view of the rider came over him.
'It may not matter much,' he said apologetically, 'but I would rather not be seen on the road -- by anyone. I am sick of my doings being noticed and discussed. And if it is Gandalf,' he added as an afterthought, 'we can give him a little surprise, to pay him out for being so late. Let's get out of sight!'
「後ろの方から、子馬だか、馬だかが駈けて来るのが聞こえますだ。」と、サムが言いました。
三人はふり返って見ましたが、道が曲がっているので先の方は見えません。「ガンダルフがあとを追って来たんだろうか?」と、フロドがいいました。しかしそうはいったものの、そうではないような気がしてきて、かれはふと、馬に乗って来る者の視界から身を隠したいという強い望みにとらわれました。
「たいしたことじゃないかもしれないが、」と、かれはいいわけがましくいいました。
「わたしは道を歩いているところを見られたくないんだ―――だれにでも。いちいちどうのこうのといわれてきて、うんざりしてしまったんだ。もしガンダルフだったら、」かれはあとから思いついたようにいいました。「ちょっと驚かせてやってもいいもの。こんなに遅くなった罰にね。さあ、隠れよう!」
(同 P168)
hear O Ving =Oが〜しているのが聞こえる
turn =名 曲がり 
S prevented O from Ving =SはOが〜するのを妨げた→SのためにOは〜できなかった。I wonder if S V =〜かしら  desire =望み  hide =隠れる  view =視界
may=かもしれない  matter =重要である  apologetically =弁明して、
would rather =むしろ〜したい  would rather not =むしろ〜したくない
be sick of = 〜にうんざりしている  afterthought = 後から思いついたこと
pay out for ~ = お返しをする、こらしめる

A sudden unreasoning fear of discovery laid hold of Frodo, and he thought of his Ring. He hardly dared to breathe, and yet the desire to get it out of his pocket became so strong that he began slowly to move his hand. He felt that he had only to slip it on, and then he would be safe. フロドは突然、見つかりたくないという謂われのない恐怖に捕らえられました。すると指輪のことを思いつきました。そして息をする勇気さえなかったのですが、ポケットから指輪を取り出したいという望みがどうしようもないくらい強まって、ゆきくりと片手を動かし始めました。指輪に指を滑り込ませさえすればもう安全なんだと、かれには感じられました。
(同 P170)
sudden = 突然の  unreasonong =理屈に合わない、 discovery =発見
lay hold of O = 〜を支配する hardly =ほとんど〜ない、とても〜ない
dare to = あえて〜する  breathe =息をする  desire =望み  
get O out of ~ = Oを〜から取り出す   so ~ that... =あまりに〜なので....だ
have only to =〜しさえすればよい 
ホビット達がナズグルと遭遇するシーンです。映画の方では怪しげな雰囲気がよくでていました。何でもカメラをズームさせながら引くという技術だったそうです。
さて、ナズグルはホビット達に二度近づきます。二度目に近づいた時にはたまたま近くにエルフの貴公子ギルドールの一行がやってきて、ナズグルは逃げ、ホビット達はエルフ達と一晩共にします。ここのシーンは残念ながら映画では割愛され、SEE版ではただホビット達が森の中を旅するエルフの一行を目撃するにとどまっていますが、青白い光に包まれたエルフの一行は、実に美しい映像となっています。


'Elves!' exclaimed Sam in a horse whisper. 'Elves, sir!' He would have burst out of the trees and dashed off towards the voices, if they had not pulled him back.
―――中略―――
'Listen! They are coming this way,' said Frodo. 'We have only to wait.'
The singing drew nearer. One clear voice rose now above the others. It was singing in the fair elven-tongue, of which Frodo knew only a little, and the others knew nothing. Yet the sound blending with the melody seemed to shape itself in their thought into words which they only partly understood.
「エルフだ!」サムがしゃがれ声をあげました。「エルフですだ、旦那!」フロドとピピンの二人がかりで押しとどめなければ、サムは林の中から走り出て、声のする方に駈けて行ってしまったでしょう。
―――中略―――
「ほら、聞こえるよ!こっちにやってくる」と、フロドはいいました。「ただ待ってればいいのだ。」
歌声は近づいて来ました。すんだ一つの声が、他の声より一きわ高く響いていました。それは美しいエルフの言葉で歌っていました。フロドはまだわずかながらもその言葉を知っていましたが、あとの二人は全然知りません。けれど、メロディと融け合ったその音は、三人の頭の中で、かれらには部分的にしか理解できないとはいえ、言葉の形をなしてくるように思えました。
(同 P180)
exclaim =叫ぶ hoarse =しわがれた、かすれた  
He would have burst out......, and dashed off..... , if they had not pulled ....
過去の事実の反対を述べる、仮定法過去完了の用法です。実際にはフロドとピピンが押さえていたので、サムが林の中から走り出ることはありませんでした。
have only to =〜しさえすればよい   elven-tongue =エルフ語
,of which = 関係代名詞のwhichの前に前置詞のofがついています。こういう文はわかりにくいですが、要は関係代名詞イコール先行詞ととらえれば簡単です。ここでは先行詞はelven-tongueですから、of which以下を単独の文で言い換えるとこうなります。
Frodo knew only a little of the fair elven-tongue.
確かに文語的な言い方ですが、このような前置詞を伴う関係代名詞は、文学作品などには結構見受けられます。
また最後のYet以下の文章の美しいこと。トールキンの書く文章には、このような美しい比喩が非常に多く表れます。同様に美しい瀬田訳と並べて味わってください。
余談ですが、トールキンは英語はもちろんのこと、他にフランス語、ドイツ語はいうまでもなく、アイルランド語やアイスランド語、フィンランド語にも堪能だったそうです。とはいえ天才的な学者であるトールキンにしても、全く苦労なしで外国語を覚えたとは思えません。トールキンは往々にして、このシーンのフロドのように、不自由な外国語にじっと耳を傾けて聞き取ろうとしたことがよくあったのではないでしょうか。この次の、エルフ達と一晩を過ごすシーンでも、フロドはじっとエルフ達の会話に耳を傾けます。


'You mean the Riders? I feared that they were servants of the Enemy. What are the Black Riders?'
'Has Gandalf told you nothing?'
'Nothing about such creatures.'
'Then I think it is not for me to say more--lest terror should keep you from your journey. For it seems to me that you have set out only just in time, if indeed you are in time. You must now make haste, and neither stay nor turn back; for the Shire is no longer any protection to you.'
「あの乗手のことですか?あれが、われらの敵の召使いでないといいんですが。黒の乗手とは、そも何者でしょう?」
「ガンダルフから聞かなかった?」
「あんな者たちのことは何も。」
「それなら、わたしの口からこれ以上は申すまい。―――恐怖のあまり、あなたが旅を続けられぬとあっては困るから。どうやら、出発がぎりぎりの瀬戸際だったようだなあ。本当に間に合ったとすればの話だが。さあこれからは急がなければ。とどまるもだめ。戻ることも不可。ホビット庄はもはや身を守る場所ではないもの。」
(同 P191)
fear =恐れる  servant = 召使い、奴隷  creature = 生き物、やつ
lest S should do = Sが〜しないように 
keep A from B = AをBさせないようにする  
lest S should というのはこれまた文語的表現ですが、一応大学入試必須構文なので、何度も読んで意味を理解しておいてください。次のkeepも無生物主語構文で意味が取りにくいと思います。訳文をしっかりと味わって読んでおいてください。
it seems to me that .... =〜のようだ   set out =出発する  be in time =間に合って
indeed =本当に  make haste =急ぐ  neither A nor B = AもBも〜ない
no longer =もはや〜ない  protection = 保護、保護する物
その晩、エルフたちにご馳走を振る舞ってもらった後、フロドはギルドールといろいろな話をします。そして話題は今し方遭遇した黒の乗手の事へと移っていきました。この時点ではまだフロドは黒の乗手が指輪の幽鬼ナズグルだとは知りません。また「ガンダルフが後れた事」にはギルドールも懸念を表明します。

この後の会話に出てくるギルドールとフロドとの掛け合いも絶妙です。
ギルドールが
「魔法使いにはおせっかいをやくな、変幻自在でよくおこる」
Do not meddle in the affairs of Wizards, for they are subtle and quick to anger. といえば、フロドが
「エルフに意見を求めるな、よしとあしとを、ともにいう」
'Go not to the Elves for counsel, for they will say both no and yes.' と切り返します。
どちらもわざとことわざっぽくなっていて、英語も強弱のリズムがあるので、訳語もそれに合わせてちゃんと七五調に訳してありますね。けれどもギルドールは最後には Take such friends as are trusty and willing.「信頼の置ける、そして自ら進んでいく気のある友人を連れて行け」というアドバイスをしてくれました。

meddle =干渉する   affair = 関心事、問題  subtle = とらえがたい、難解な、こうかつな  such A as ~ = 〜するようなA(このasは関係代名詞)
trusty =信頼できる  willing =快く〜する、〜するのをいとわない



CHAPTER IV A SHORT CUT TO MUSHROOMS 〜茸畑への近道


'Don't you leave him! they said to me. Leave him! I said. I never mean to. I am going with him, if he climbs to the Moon, and if any of those Black Riders try to stop him, they'll have Sam Gamgee to reckon with, I said. They laughed.' 「あの方の側を離れるなよ! って、みんなはおらにいっただ。離れるだと! と、おらはいってやった。けっしてそんなつもりはねえ。たとえあの方が付きへ上られようと、おらはあの方について行くだ。そして、あの黒の乗手どもがあの方の邪魔立てをしようとするなら、そのときはこのサム・ギャムジーがひかえてることをやつらに思い知らせるだ、とおらはいったっけ。みんなは笑いましただ。」
(同 P199)
Don't you leave him! = Don't leave himを強めて言っています。
reckon with ~ = 〜を(手強いものとして)考慮に入れる
ギルドール一行と一夜を明かしたその次の朝、サムがフロドに向かっていう言葉です。「みんな」とはギルドール達のこと。この時からサムはフロドを守り抜く決心をしています。ギルドールとのエピソードはすべて映画では割愛されていますから、むろんこのシーンも映画にはありませんが、映画のそこここでサムのこのような決意は表れています。

またこのギルドールの台詞は映画ではガンダルフがサムに向かっていった言葉と変えられています。映画では旅に出てまもないころ、ホビット庄のトウモロコシ畑でフロドを一瞬見失ってしまったサムがフロドに言っています。
映画:
Sam: Mr. Frodo? Frodo! FRODO! [Frodo comes into sight, and Sam sighs in relief.]
I thought I'd lost you.
Frodo: What are you talking about?
Sam: It's just something Gandalf said.
Frodo: What did he say?
Sam: "Don't you lose him, Samwise Gamgee." And I don't mean to.
サム:フロド?フロド様!見失ったかと思いました。
フロド:いったい何の事だ?
サム:ガンダルフが言った事なんです。
フロド:なんていったんだい?
サム:「彼を見失うなよ、サムワイズ・ギャムジー」そしてそんな事は絶対にしないつもりです。 


さて3人のホビット達は旅を続けますが、しばらく行ったところでまた黒の乗手が遠くで彼らを捜しているのを見かけて茂みに隠れます。そのときナズグルはおそらくは仲間との連絡のためでしょうか、実におぞましい叫び声をあげます。このシーンも映画にはありませんが、ラジオドラマのCDの方にはこのナズグルの叫び声が効果音として入っており、実に不気味で、わたしはなかなか気に入っています。(^^;) また映画の方にも別の箇所でナズグルの叫び声が入っていますが、実は映画のナズグルの声は、監督のピーター・ジャクソンの奥さんのフラン・ウォルシュ(脚本も担当)の叫び声を加工したものだそうです。


街道を避け、野原を突っ切ったホビット達はマゴットじいさんの農場に出ます。ここでフロドが幼少の頃、マゴット農場から好物のマッシュルームを盗み、マゴットじいさんにこってり油を絞られたエピソードが紹介されます。
ホビット族は一般にマッシュルームが好きだと書いてありますが、おそらくトールキン自身も大好物だったのではないでしょうか。
ちなみにこのマゴットじいさん、この後に登場する不思議な人物、トム・ボンバディルとも知り合いで、「トールキン小品集」のトム・ボンバディルに関する詩の中にも登場します。後のほうでマゴットじいさんが古森に一時期よく出入りしたというエピソードが紹介されますし、トムの方もマゴットじいさんを知っていると言っています。
昔はフロドを目の敵に(?)していたマゴットじいさんも、実は親切な人で、一行3人に夕食とビールを振る舞った後、馬車でブランデーワイン川の渡し場まで送ってくれることになりました。
あたりはすっかり暗くなり、深い霧に包まれています。と、そこに馬の蹄の音が聞こえてきました。


'Now then!' said the farmer, throwing the reins to Sam and striding forward. 'Don't you come a step nearer! What do you want, and where are you going?'
'I want Mr. Baggins. Have you seen him?' said a muffled voice -- but the voice was the voice of Merry Brandybuck. A dark lantern was uncovered, and its light fell on the astonished face of the farmer.
'Mr. Merry!' he cried.
'Yes, of course! Who did you think it was?' said Merry coming forward.
「こら!こら!」お百姓はそういって、手綱をサムの方にほうると、ずかずか前に出て行きました。「一歩でも近寄るな!お前はなんの用があるんだ?そしてどこへ行く?」
「バギンズ氏に用がある。かれに会わなかったか?」くぐもった声がいいました―――しかしそれはメリー・ブランディバックの声だったのです。暗いランターンの覆いが取られ、そこから流れ出た光が驚きあきれているお百姓の顔を照らしました。
(同 P222)
throw =投げる  rein =手綱 stride =大股で歩く(ストライダー(馳夫)の語源ですね)
don't you = don't 否定の命令形のdon'tをさらに強めて言うと、主語が復活してDon't youになります。 muffle =くるむ、包む(マフラーの元になった語) uncover =覆いを取る
astonished =驚いた  Who did you think it was? = (それが)誰だと思ったんだい?who was it?(それは誰?)の疑問文の間にdid you thinkが割り込んだと考えましょう。
そして4人のホビットたちは船に乗ってブランデーワイン川を渡ります。原作では無事渡り終わった後に、渡し場に何か黒い物がうごめいているのを見るだけですが、映画の方ではフロドはここでも黒の乗手に追われ、すんでの所で船に飛び乗ります。とにかく映画はいろいろな点をよりスリリングに、より感動的に、よりわかりやすく修正しています。

ちなみに渡し場で初めて黒い物(ナズグル)を見たメリーは 'What in the Shire is that?' 「いったいあれはなんだ?」と言います。本来ならon earth(一体全体)を使うところですが、earthという概念を知らない(?)ホビットのこと、earthの代わりにthe Shireを使ったという事なんでしょうね。思わず笑えました。きっとthe Shireが彼らの世界のすべてだったんでしょうね。このときまでは。



CHAPTER V    A CONSPIRACY UNMASKED  〜 正体をあらわした陰謀


さてこのあと無事堀窪(Crickhollow: crickは小川、hollowはくぼみのこと)に着いたフロド達はお風呂と夕食をすませます。そのあと話題は自然と先ほどの事件に移っていきます。フロドはいつかは話さなくてはならないと思っているのですが…


'It's coming out in a minute,' whispered Pippin to Merry. Merry nodded.
'Well!' said Frodo at last, sitting up and straightening his back, as if he had made a decision. 'I can't keep it dark any longer. I have got something to tell you all. But I don't know quite how to begin.'
'I think I could help you,' said Merry quietly, 'by telling you some of it myself.'
「もうすぐ口に出すよ。」ピピンがメリーに囁きました。メリーはうなずきました。
「さてと!」やっと、何かを決意したように背中をのばして座り直すと、フロドはいいました。
「もうこれ以上内緒にはしておけない。きみたちに話さなきゃならないことがあるんだ。しかしどういうふうに話を始めたらいいものか。」
「ぼくが助太刀してあげられるかもしれませんよ。」メリーが静かにいいました。「その話の一部をぼくからあなたに話してあげることでね。」
come out =外へ出てくる、明らかになる in a minute =すぐに
whisper =囁く  nod =うなずく  sit up = 起き直る、きちんと座る
straighten =まっすぐにする  as if =まるで〜かのように  make a decision =決心する
dark =秘密の、隠れた not ...any longer =もはや〜ない quite = まったく
by ~ing =〜することによって
ここらへんはずっと原作を取り上げていきましょう。


'What do you mean?' said Frodo, looking at him anxiously.
'Just this, my dear old Frodo: you are miserable, because you don't know how to say good-bye. You meant to leave the Shire, of course. But danger has come on you sooner than you expected, and now you are making up your mind to go at once. And you don't want to. We are very sorry for you.'
「どいういうことだね?」フロドは心配そうにかれの方を見ていいました。
「ぼくの親愛なフロドさん、ただこういうことですよ。あなたは苦しんでいる、あなたはさよならを告げる言い方が、わからないんだ。もちろんあなたはホビット庄を去るつもりでいた。だが、危険はあなたが予期していたより早くあなたを襲った。そこで今あなたは直ちに出かける決心を固めようとしている。しかしそうはしたくない。そんなあなたのことを、ぼくたちはとても気の毒に思ってるんです。」
anxiously =心配そうに  miserable =みじめな  how to =どのように〜すべきか
mean to =〜するつもり   danger =危険  expect =予期する、思う
make up one's mind to = 〜する決心をする  want to = 〜したい、want to の後にleave the Shireが省略。


Frodo opened his mouth and shut it again. His look of surprise was so comical that they laughed. 'Dear old Frodo!' said Pippin. 'Did you really think you had thrown dust in all our eyes? You have not been nearly careful or clever enough for that! フロドは口をポカンと開け、また閉じました。その驚きの表情があまり滑稽だったので、みんなは声をあげて笑いました。「親愛なフロドさん!」と、ピピンがいいました。「あなたは本当に私たちの目をくらますことができたと思ってたんですか?それにしてはちょっと注意が足りなかったし、あまりそつなくふるまったともいえませんね!」
look =表情 so... that ~ =あまりに.....なので〜だ  comical =滑稽な
throw dust in one's eyes = 人の目をごまかす(原義は「人の目に砂をかける」)
careful =注意深い  clever =賢い 
映画の方ではサムはともあれピピンとメリーはホビット庄の畑でフロドとサムに出会い、そのまま何となく旅に出てしまいますが、原作の方はまったく異なり、友人達は周到に準備をして計画を練り上げているのです。


But I must go,' said Frodo. 'It cannot be helped, dear friends. It is wretched for us all, but it is no use your trying to keep me. Since you have guessed so much, please help me and do not hinder me!'
'You do not understand!' said Pppin. 'You must go -- and therefore we must, too. Merry and I are coming with you. Sam is an excellent fellow, and would jump down a dragon's throat to save you, if he did not trip over his own feet; but you will need more than one companion in your dangerous adventure.'
「だがわたしは行かなければならない。」と、フロドがいいました。「しかたがないんだよ、親しい友たちよ。お互いに悲しいことだけど、わたしを引きとめようとしても無駄だからね。きみたちがそこまでいいあてた以上、どうかわたしを助けて、止めないでくれたまえ!」
「わからないんだなあ!」と、ピピンがいいました。「あなたは行かなきゃいけないんでしょ―――だから、ぼくたちもまた行かなきゃならないんです。メリーとぼくはあなたと一緒に行きますよ。サムはすばらしいやつです。あなたを救うためには竜の喉元にだって飛び込むでしょう。自分の足に蹴つまずいたりさえしなければね。だけど、あなたの危険な冒険旅行には、連れは一人では足りませんよ。」
It cannot be helped =仕方がない、どうしようもない  wretched = 惨めな、悲惨な
It is no use ~ing =〜しても無駄だ  since =〜だから guess =推測する
hinder =邪魔する、妨げる  therefore =それゆえ、したがって
excellent =すばらしい  throat =のど、のど元 save = 救う
trip over ~ = 〜につまずく   companion =仲間

more than は辞書には「〜以上」とよく出ていますが、実は以上ではなく「〜より多い」という意味です。ですからmore than one companion は「一人以上の仲間」ではなく、「二人以上」が正確なところです。ですから「二人以上の仲間が必要」→「一人では足りない」という訳がなされているのです。数が多ければ「〜以上」と訳して全く構いませんが、このようにmore than one とかmore than twoなど小さい数字と共に出てくる場合には注意が必要です。


'You can trust us to stick to you through thick and thin -- to the bitter end. And you can trust us to keep any secret of yours -- closer than you keep it yourself. But you cannot trust us to let you face trouble alone, and go off without a word. We are your friends, Frodo. Anyway: there it is. We know most of what Gandalf has told you. We know a good deal about the Ring. We are horribly afraid -- but we are coming with you; or following you like hounds. 「ぼくたちはあくまであなたを離れない―――水火も辞せずついて行きます。この点ではぼくたちを信頼してください。それからぼくたちはあなたの一切の秘密を守ります―――あなた自身より口が固いくらいに。この点でもぼくたちを信頼してください。だけどぼくたちは、あなたを一人で困難に立ち向かわしたり、一言の挨拶もなしに行かしてしまうことはしませんからね。これはあてにしたらだめです。フロドさん、ぼくたちはあなたの友達なんです。ともかく、そこなんですよ。ぼくたちはガンダルフがあなたに話したこともだいたい知ってます。指輪のこともかなり知ってます。ぼくたちはすごく怖いんです―――でもぼくたちはあなたと一緒に行くつもりです。でなければ猟犬のようにあなたについて行きます。」
trust =信用する stick to ~ = 〜にくっつく、くっついて離れない 
through thick and thin = よい時も悪い時も、どんな時でも、どんなことがあっても  
to the bitter end = とことん、徹底的に、最後まで  secret = 秘密
close = 秘密の、隠された → keep O close = Oを秘密にしておく
let O 原形 = Oに〜させておく  face = 直面する  there it is = 問題はそこにある
 most =ほとんど what =(関係代名詞)〜こと  a good deal = たくさん、多量  horribly = 恐ろしく、ものすごく
hound = 猟犬
ここでフロドの友人達がいままで秘密にしてきた思いが暴露されます。フロドを演じたイライジャ・ウッドがLOTRはただのファンタジーじゃない、友情のすばらしさを描いていると言っているのを何度か聞きましたが、ここに出てくるフロドの友人達の思いは原作そのままに忠実に映画の方でも現されています。映画ではバックの渡しを超えた後すぐにブリー村に入ってしまい、このシーンもカットされていますが、あちこちに彼らの友情がきちんと表現されています。原作をかなり変更しながらも、映画が原作ファンに支持されたのは、こうした物語の根本に関わる部分に関してはきちんと表現しているからだと思います。

わたしがLOTRの中で一番好きなのは最後の灰色港の別れのシーンですが(ジャクソン監督も同じところが一番好きだと言っていました)この堀窪でのシーンはその次に大好きなところです。ピピンとメリーの飄々とした言動の裏にはこうした熱い友情が秘められているのです。


'You are a set of deceitful scoundrels!' he said, turning to the others. 'But bless you!' he laughed, getting up and waving his arms, 'I give in. I will take Gildor's advice. If the danger were not so dark, I should dance for joy. Even so, I cannot help feeling happy; happier than I have felt for a long time. I had dreaded this evening.' 「きみたち不逞の輩め、よくもぬけぬけとだましたな!」かれは残る三人の方を向いていいました。「だけど、きみたちには呆れたよ!」かれは声をたてて笑うと、立ち上がり、両手をひろげました。「降参したよ。ギルドールの忠告に従おう。危険がこれほど恐ろしいものでなければ、わたしは喜びのあまり踊り出すところだろうけど。それでもわたしはうれしく思わずにはいられない。ずいぶん長いことこんなにうれしく思ったことはないくらいだ。わたしはこの夜がくるのをずっと恐れていた。」
a set of = 〜一味、〜仲間  deceitful = 人をだます、うそつきの 
scoundrel =(やや古)悪漢、ふらちなやつ  turn to =~の方を向く
bless you = やれやれ、おやまあ  wave =(手を)振る  give in = 降参する
If the danger were not so dark,... =仮定法過去の文 仮定法過去の時にはbe動詞はwasではなくwereになります
cannot help ~ing = 〜せずにはいられない  dead = 恐れる
ここの箇所を書いた挿絵はあまり多くはありませんが、テド・ネイスミスが確か描いています。暖炉の前で狼狽しているフロドと周りに座って笑い声をあげている友人達。ガンダルフの「百年つき合ってみたって、いざという場合のホビットたちには驚かされるほかはないな」という台詞が思い出されます。

なお、イギリスBBC制作のラジオドラマではフロドを演じているのは、映画でビルボを演じたイアン・ホルムですが、ラジオドラマのCDではここのところで、イアン・ホルムが実に感動的な、もう今にも泣き出しそうなフロドを演じています。何度聞いてもぐっとくる箇所です。

とかく並べて描写されることの多いメリーとピピンですが、彼ら二人の性格はかなり違います。メリーは沈着冷静。今回の旅立ちにあたって用意周到に準備したのはメリーで、食料から着替えから足としてのポニーまで用意し、フロドに「一時間あれば出発できる」と語っています。方やピピンの方はやたらと好奇心が強く(これはホビットは誰でもそうらしいですが)そのためとかくトラブルの元になってしまいますが、一方機転が利くのもピピンの方です。


さて、映画の方はあっさりとブリー村入りしますが、原作の方はフロドの新居の堀窪から黒の乗手を避け、一行は古森(Old Forest)へと入っていきます。この古森からトム・ボンバディルの家に泊まり、塚山丘陵でまた一事件ありますが、映画の方では割愛されています。




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